もうひとつの景色 | 冬至まで(上) |
冬至まで(下) | シェルシーカーズ(上)〜(下) |
夏の終わりに | イギリス田園の小さな物語 |
悲しみに打ちひしがれている時、みえなくなっているもの。ほんのちょっと視野を広げれば、ぜんぜん違ったみかたができるということ。それがこの本のテーマなのではないかと思います。
主人公のエマは19歳。どこにでもいる普通の女の子。1人になりたくない、愛されたいと強く願っています。
自分はいつもどうでもいい存在、漠然とした不安、満たされない思い、誰かとつながっていたい。こんな思いを抱えた人なら、エマに共感できるのではないでしょうか。
エマに大きな悲しみが襲った時。
辛い時には、心配してくれる人がかけてくれる言葉に対しても、「非難されている」
と思ってしまったり、同情されたくない、惨めな姿をみせたくない、ほっといてし
いと思うエマの気持ちはよくわかります。
エマの父親であるベンも、父の画廊マネージャーであるロバートも、不器用な人と言えます。物語の終盤になるにつれて、やっと謎が理解できたような気がします。
愛情はしっかりと言葉で伝えなきゃわからないと言うこと。言葉が足りないと、時に誤解を生じること。
そして上手に自分の思いを伝える、愛情を伝えるなんてことは、難しいということ。
こうやって、傷つけあって、ぶつかって、すれ違って、気づいて、後悔して、その繰り返しで人は生きて行くんだなぁと思いました。
オスカーと共に、スコットランドに旅立つエルフリーダ。2人は共に60代。
そこに集まった30代のキャリー、10代のルーシー。それぞれに
事情を抱え、傷を負った人々が織り成す心が温まる物語です。
エルフリーダは、側にいるだけで寂しさや孤独を溶かして暖かな光を当ててくれるような存在です。困っている人をみると、相手の立場になって辛い状況を理解し、力になれることはないかと考えます。
そんな優しい性格だからこそ、大切な人を失ったオスカーをほっておけなかったのでしょう。
彼女自身も、大切な人を失った過去があり、辛い過去があることが回想の部分で明らかになっていきます。
淡々とした日常の中に溢れる思いやりや人の温かさに、心がスッっと晴れ渡っていきました。
疲れている人にオススメの1冊です。
4人が集まりクリスマスの準備をするところで終わるのですが、それぞれがどう変わっていくのか、これからの展開が楽しみです。
→著者別[海外小説]
→ジャンル別[一般小説]
→テーマ別[美しい風景描写]
4人がクリスマスの準備をする頃、ふとした理由から迷い込んだサムも一緒に過ごすことになります。
相手のことを想像しながらプレゼントを選ぶ楽しみ、クリスマスツリーを用意して飾りつけたり、パーティーのための料理を考えたり。
そんな小さな小さな楽しみに胸を躍らす人達。
なんでもない日常に、愛と暖かさがたくさん満ちています。
作者の人間をみる眼差しが暖かいのでしょうか。ごく自然に語られているのです。この古いスコットランドの家でさえも、住人を大きく包みこみ、優しく柔らかな息吹が感じられるようです。
それぞれにお互いが傷を抱えていることをよく知っている。
そんな時、人はどうして欲しいのでしょうか。
それはその時の状況や出来事によっても違うと思う。
優しい言葉をかけて欲しい。抱きしめて欲しい。そっとしておいて欲しい。
一緒に泣いて欲しいときもあるかもしれない。
そんな時の付き合い方、距離のとりかたがみんなとても上手なのです。
相手の心にズカズカ踏み込んだり、無理に聞きだそうとすることなく、見守るこができる人達です。
さらりと読めてしまうけど、この本に流れるゆったりとした時間、なにげない会話はやっぱり魅力的だ。本当にたくさんの物がつまってるから。
→著者別[海外小説]
→ジャンル別[一般小説]
→テーマ別[美しい風景描写]
高名な画家の娘であるペネラピを主人公に、3人の子供たちとの人間模様を描いた もの。現代を描きながら、時にイギリスの戦前、戦中、戦後のベネラビの若い頃の 様子を盛り込み、物語に深みを与えている。
周囲に思いやりと愛情を持って接するベネラピ。
それとは、対照的にひとりよがりで自己満足の世界に生きている長女のナンシー。
人には頼らず自分の道をまっしぐらなキャリアウーマンの次女オリヴィア。
自分以外のことにはまったく無関心で自己中心的な末っ子のノエル。
ベネラピの父が残した絵が再評価され、売るようにせっつくナンシーとノエル。
自分たちが物入りなもんだから、おこぼれを期待しているのだ。
そんな2人にあれはママのものなんだからといって、母をそっとしておくオリヴ
ィアがカッコいいと思った。
ベネラピがどんなに愛情を注いでも、それに気づかない子供たち。
持っているものがあるのに、その価値がわかっていない。与えられたものがある
のに、まだ足りないと不平を並べる。
親子の言い争いの場面では凍りつき、胸がしめつけられる。
子供たちを甘やかせず、ある時は厳しい愛情を示し、しっかりと自分の生き方を
確立し、自立したベネラピが素敵です。
→著者別[海外小説]
→ジャンル別[一般小説]
→テーマ別[美しい風景描写]/
[壮大なスケール]
舞台は夏の終わりのスコットランド。主人公は21歳のジェイン。父と暮らすカリフォルニ
アの家を出て、叔母のいるスコットランドに向かうところから物語りは始まる。
ジェインにとって、エルヴィー荘は、子供時代を過ごしたこともあり、懐かしく想い出深
い場所。そして何より、密かに思いを寄せているいとこのシンクレアとの再会が待ってい
た。
故郷へと近づくにつれ、感極まり言葉をなくすジェイン。昔歩いた道、子馬に乗って駆け
た草原、お茶を飲みにいった白いコテージ。きっとジェインの胸の中には、たくさんの想い
出が次々と溢れ出し、変わらないこの空気、風、匂いを全身で噛みしめていたのではない
でしょうか。私も自分のことのようにワクワクして流れてくる風景を見入っていたのでした。
懐かしい風景が広がりようやく辿り着いたエルヴィー荘。駆け出し祖母と固く抱きしめあう
シーンは感動的です。
7年ぶりに出会うシンクレアはハンサムで、始めは嬉しさに胸をいっぱいにしていたジェ
インですが、隠されていた彼の真実が明らかになるにつれ不安が募っていく。
シンクレアの裏切りに怒るでもなく、悲しむでもなくそこにあるのはただ失望だったので
はないでしょうか。こんな筈はない、私がみていた彼はこんな人じゃなかった・・・・・・思わ
ず目を逸らしたくなるところですが、ジェインはしっかりと事実を受け入れ前に進んでい
きます。
ピルチャーの作品を読んでいつも思うのは家の中の描写の美しさです。その家はおそらく
とても古く、小物なども何世代も前の人物から受け継がれた古く色褪せたものなのかもし
れない。けれど、使う人の思い、愛情、優しさなどが染み込まれているような気がするの
です。
そこで暮らす人物はその家を愛し、日常を慈しみ、丹精込めて床を磨き上げる。
するとこの家にやってきたお客さんは家主の暖かい懐に包まれ、磨き上げられた小物たち
をみていると、優しい眼差しに迎え入れられているような居心地の良さを感じる。そうい
うことなんじゃないかと思います。ストーリーも、もちろん楽しめますが、私はこの雰囲
気がたまらなく好きなのです。
スコットランドの素朴な風土を背景に、悩みや心の傷をのりこえて幸せを夢見る人びと。 やすらぎと感動を呼ぶ心の物語集。 (「BOOK」データベースより)
大きな幸せ、派手なこと、刺激的なこと、そういうものよりも私は小さな幸せをみつけ られる人でいたいと思う。田園で暮らす素朴な人々も、やっぱり同じように悩んだり迷 ったりしていて、親しみを感じる。
誰かのいった一言で救われる時、暗い心に明るい光が射した瞬間、うつむく自分にそっ と手を差し伸べてくれる人。どのお話も暖かく、人っていいなぁって思わせてくれる。 善良で心優しい人ばかりが登場するので、ギスギスとした環境で心が擦り切れている人 にぴったり、癒されます。
普段は近すぎて気づかないけれど、見守ってくれる人がいる。身近な幸せに気づかせて くれる。乗り越えていく人々をみていると勇気が沸いて来ます。人との結びつきが素敵 なやすらげる一冊です。