1/4のオレンジ5切れ | |
母が死に、1冊のノートが遺された。ドイツ軍が駐留し、レジスタンス運動が巻き起こった フランスの片田舎で、あの日、本当は何があったのか―。追憶のまばゆい光の中できらめ く故郷で、あまりにも幼すぎ、無邪気だった私。ノートに綴られた母の心のつぶやきが今、 私の胸をえぐり、贖罪の涙を誘う。 (「BOOK」データベースより)
あの頃、9歳の私は何に渇望していたのか。満たされぬ何かを埋めるためなのか、いつも
イライラし、母へと向けられる敵意。フランボワーズと母との確執が痛々しく胸を締め
付けます。
母もまた夫が戦死してから、3人の子供を一人で育てていかなければならない。毎日が必
死、今日を乗り切ってもまた明日が来る。持病の偏頭痛に、子供たちへの接し方。何かに
追い詰められているかのようにキリキリして、固く閉ざされた心。
亡き母が残した一冊の雑記帳は、乱雑で暗号のようなものがいっぱいだ。いったいなぜ母 は、私にこれを託したのか、64歳になったフランボワーズは、少しずつ読み解いていく。 あんなに頑なで、なぜいつも怒っていたのか、はっきりとしたことは記されていない。だ けど文字から心の動揺や迷いは伝わってきました。きっとどうやって愛情を表現したらい いのかわからなかったのだと思う。日記を通してほんの少し母の気持ちに寄り添えたよう な気がします。
いつしか記憶は過去へ、あの夏の日々が蘇る。果樹園のこと、釣りのこと、ドイツ兵との
交流、美味しそうな料理の数々。そのどれもが美しく彩られていて、甘い匂いがふわりと
漂ってきそう。
ここにたびたび登場するオレンジは、甘く瑞々しいオレンジとは違う。母の偏頭痛の種で
もあり、封印された秘密を思い出す象徴なのだ。
あの夏何があったのか、無我夢中でフランボワーズと一緒に過去を歩いていた。
子供の頃の過ちと抱えていくことになった秘密の重さ、それは歳を経るごとに大きくなり
現在のフランボワーズを形作ってしまったのではないだろうか。
いつのまにか母そっくりな人間になっている自分にぞっとしたこと。待ち受けていた思い
も寄らない真実。自分をみつめるということ。
闇は長く、記憶という鎖が彼女を縛り付けていた。ようやく訪れた平安に胸がいっぱいに
なった。
→著者別[海外小説]
→ジャンル別[一般小説]
→テーマ別[食べ物]/
[壮大なスケール]