HOME

サラ・ウォーターズ作品

エアーズ家の没落(上) エアーズ家の没落(下)

エアーズ家の没落(上)/サラ・ウォーターズ 著


かつて隆盛を極めながらも、第二次世界大戦終了後まもない今日では、広壮なハンドレッズ領主館に閉じこもって暮らすエアーズ家の人々。かねてから彼らと屋敷に憧憬を抱いていたファラデー医師は、往診をきっかけに知遇を得、次第に親交を深めていく。その一方、続発する小さな“異変”が、館を不穏な空気で満たしていき…。たくらみに満ちた、ウォーターズ文学最新の傑作登場。 (「BOOK」データベースより)

まずすごいと思ったのが屋敷の詳細な描写。大理石の床や暖炉、アーチ形の天井、無数の肖像画、金箔張りの燭台、巨大なシャンデリア、次々と現れる見慣れない光景に惹きつけられます。こんな素敵なお屋敷なのだけど、今ではすっかり荒れ果て寒々しい印象です。調度品が色あせ、室内全体がじめじめとして、とても一人では歩けない不気味さ。

この屋敷に住むのは、令嬢キャロラインと、弟ロデリック、母アンジェラ、メイドベティの4人だけ。物語は、メイドの往診をきっかけに頻繁に訪れるようになったファラデー医師の視点で語られていきます。

作風は、スピード感があるわけでもなく、アッと驚く展開もなく、それほどミステリー色が濃いものではありません。むしろ建物の内装や人物の描写、雰囲気や空気感がよく出ている作品だと思いました。

怪奇現象の謎は、わかりませんが建物自体が朽ち果て、それが住人にまでもジワジワ侵食しているようにもみえます。ロデリックの壊れっぷりも怖いけれど、私にはファラデー医師が、ここまでこの屋敷と家の住人にとりつかれていく様子ももっと怖く思えました。(下巻に続く)

→著者別[海外小説]
→ジャンル別[ミステリー・サスペンス]
→テーマ別[幽霊]


★詳細・注文Amazon.co.jp楽天ブックスhonto
↑ページTOPへ

エアーズ家の没落(下)/サラ・ウォーターズ 著


相次ぐ不幸な出来事の結果、ハンドレッズ領主館はますます寂れていた。一家を案じるファラデー医師は、館への訪問回数を増やし、やがて医師と令嬢キャロラインは、互いを慕う感情を育んでいく。しかし、ふたりの恋が不器用に進行する間も、屋敷では悲劇の連鎖が止まることはなかった…彼らを追いつめるのは誰?ウォーターズが美しくも残酷に描く、ある領主一家の滅びの物語。 (「BOOK」データベースより)

読み進むうち、最初は親切で紳士的にみえていたファラデー医師の正体がみえてくる。キャロラインやメイドが何度訴えても、幽霊の存在を信じない。あまりに頭が固く、理性的過ぎて怒りが込み上げてくる。本能や感覚を頼りに、原因を突き止めようとするキャロラインを、真っ向から否定している。真実を知りたいのに、立ちふさがり説き伏せようとする姿が、だんだんと目障りな存在に思えてきました。

またこの医師の視点で描かれることによって、物語に靄がかかったみたいに全貌が隠れてしまっている。これがキャロラインやロデリックの視点だったなら、もっとスピード感のある違った物語にみえてくるのではないだろうか。

怪奇現象は留まることなく、奇妙な音、壁の落書き、ドアが開かなくなるなどの不思議な出来事が続く。住人たちが病んでいき、どっしりと疲れた表情や、苦悩する心の動きまでもが目にみえるようです。

重く暗く、確実に滅びへと近づいていっている。それとは対象的に、館は住人の気力を吸い取り、あらゆるものを飲み込み、力を増していっているようにみえます。
すぐそこに留まり、常にこちらの様子を伺う気配、息遣い、企み。不気味さがどんどん広がり、寒気が走る。

読み終わった今も、真相ははっきりしない。ホラーとして読んでいたつもりだったのだけど、果たしてそうだったのか。もしかしたらミステリーだったのかもという疑惑が膨む。 最後にキャロラインが言ったセリフがひっかかり、ずっと心に残っている。

→著者別[海外小説]
→ジャンル別[ミステリー・サスペンス]
→テーマ別[幽霊]


★詳細・注文Amazon.co.jp楽天ブックスhonto
↑ページTOPへ
HOME
inserted by FC2 system