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ミルチャ・エリアーデ作品

令嬢クリスティナ

令嬢クリスティナ/ミルチャ・エリアーデ 著


これは若くして死んで現世を離れ切れぬ女の幽霊の恋物語だ。Z村の貴族屋敷の住人たち、 モスク未亡人とその娘二人は、令嬢クリスティナの美しい絵姿を生前の寝室に飾り、さな がら聖画像のように渇仰していた。令嬢は未亡人の姉で、ルーマニア全土を震撼させた 1907年の大農民一揆に巻き込まれたのだ。まだはたち前だった。死骸は見つからなかっ た。物語の舞台はそれから30年近く経っていて、貴族屋敷を訪れた青年画家と考古学者 は、令嬢クリスティナについて村では身の毛もよだつような噂がささやかれていること を知る…。 (「BOOK」データベースより)

ここに出てくる登場人物はみなどこかおかしい。モスク夫人はうつろで現実にいながら、 遠くの世界をみているようだし、長女のサンダは、徐々に身体を蝕み、不安定になって いく。そして何より一番不気味なのが、次女のシミナである。9歳にして早熟、大理石の ような完成された美しさを持ちながら、氷のような冷たさを持っている。その射るよう な視線で見つめられると、すべて見透かされているような気持ちになり、ぞっとするのだ。

クリスティナは、30年も前に死んでいるというのに、館のあちこちに気配が漂う。
今、目の前にいる人物に乗り移っているのではないか、思考を操られているのではないか と感じるような描写が随所にみられ、常にクリスティナの存在がまとわりつく。

エゴールの前に現れるクリスティナは、妖艶でありながら思わず後ずさってしまう怖さが ある。むせ返るようなすみれの香りに、全身から発する求愛。その想いの深さが濃密すぎ て逃げ出したくなってしまうのだ。

夢、現実、幻。今、目の前にあるものが現実なのか、どこからが夢で、どこからが幻なの か。広がる光景は不気味で心もとないのだけど、惹きつけられてしまうのは、人物一人一 人がとても際立っているから。その表情も、考え込む姿も、何かを隠そうとする妖しさや 動揺までもがひしひしと伝わり、奥にあるものを知りたくなる。
まるで屋敷じたいが呼吸をするかのように、30年前の悲劇のまま、止まった時間の中に生 きているみたいだ。すべてが崩壊してもなお、この世への執着と未練を持ったクリスティ ナの存在が色濃く残っている。

→著者別[海外小説]
→ジャンル別[SF・ファンタジー・ホラー]
→テーマ別[幽霊]


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