日本の名随筆とは、作品社から出版された、巻ごとに異なるテーマで編集した随筆集のシ
リーズです。各巻に30-40数編ほど、厳選された著名人によるアンソロジーなのです。
出版された数は、「本巻」100巻と、「別巻」100巻の全200巻にもおよびます。
「本巻」は一文字シリーズ:『酒』『香』『桜』など、「別巻」は二文字シリーズ:『珈
琲』『骨董』『賭事』などユニークなテーマが勢揃い。巻末には、収録された各随筆の作
者プロフィールや作品の紹介があります。
日本の名随筆(作品社ホームページ)
本巻全100巻リスト(作品社ホームページ)
別巻全100巻リスト(作品社ホームページ)
『日本の名随筆 51 雪』 加藤楸邨(編) |
『日本の名随筆 別巻 86 少女』 山田詠美(編) |
雪に関する随筆38編を集めた随筆集です。旧かな文字で書かれた作品も半分ほどあります
が、ルビが振ってあるのでなんとか読めます。
雪達磨(ゆきだるま)、甘藷(さつまいも)、糯米(もちごめ)。こんな文字をみている
と、よく知っている言葉でも違うもののようにみえてくるからおもしろい。
収録作品
雪(津村信夫);雪国雑記(堀口大学);雪のあとさき(永井龍男);積雪(
大仏次郎);雪の日(永井荷風);雪(徳冨蘆花);雪の上の足跡(堀辰雄)
;雪の根名草越え(辻まこと);雪・こぶし・兎(矢川澄子);雪の尾瀬の静
けさ(村井米子);早春の旅(古井由吉);春の雪山(野沢節子);雪の記憶
(伊藤整);雪山が息吹くとき(田久保英夫);雪崩夜話(高橋喜平);谿谷
の真冬(吉江喬松);雪に埋れて(河井酔茗);雪の思ひ出(市島謙吉);雪
中の幽霊(鈴木牧之);雪の中の瞽女たち(水上勉);越後の音(斎藤真一)
;雪おろし(杉みき子);雪割りの季節(渡辺淳一);海に降る雪(吉田一穂
);野宮の雪の山(山中智恵子);雪女の白い膝(井本農一);氷花の詩(中
村真一郎);雪中の狩人(中野孝次);雪(三木卓);「雪」(太田愛人);
粉雪(中谷宇吉郎);梅に降る雪(山口瞳);雪(団伊玖磨);粉雪の舞う宿
(佐多稲子);雪乞いの里(松下竜一);雪への想い(津島佑子);雪想い(
増田れい子);雪柱(加藤楸邨)
雪国での暮らしや、想い出、雪への憧れなど、著者によって様々な出来事が綴られていま
す。その中でも一番好きなのは、雪割りの季節(渡辺淳一)です。
春先の雪は、半年の集積で何重にも層をなしていて、下のほうは硬く氷になっています。
これを割ることを雪割りというのだけど、「地図のようにがばっと割れて・・・・・・」こんな
言葉をみるとうれしくなってしまう。まさにぴったりな表現だと思うから。
あの硬くなった氷の横から、スコップの尖端をぐいと押し込みゴキゴキッ・・・・・・
上からも割れ目を入れパキッ・・・・・・粉々にならず大きく割れると気持ちいい。そして割れ
た後にひょっこり顔を出す土は、半年振りのもの。格別の歓びなのです。
雪中の狩人(中野孝次)は、雪に閉ざされた山小屋での生活を描いたもの。吹雪で閉
じ込められた話や、吹雪の後にみた山国ならではの美しい景色。千差万別に色を変え、昼
と夜では違う顔をみせる山波など、とても興味深く読むことができた。
自然は美しいものだけど、大自然の真ん中に置き去りにされたようなこの感じは、やはり
心細いものだと思う。吹雪の日に激しく家を叩く雪には脅威を感じてしまう。
私にとって雪とは、とても懐かしいものです。長年住んでいると、初雪が降った朝は、目 が覚めた瞬間外をみなくてもわかってしまう。半年もの長い月日を雪が埋め尽くすのだか ら、雪かきとか、道が狭くなったり歩きにくかったりと面倒なこともいっぱいだけど、初 雪の降った朝と、雪解けの後にみる土は、毎年のことながら感動してしまう。
屋根の雪がドサッと落ちる音や、木の枝から雪が払い落とされる音なんて、たぶんこの本を 読んでいなかったら思い出すこともなかったと思う。著者それぞれの雪の捉え方があり、 雪との関わりがあり、色々な雪の話はどれも楽しかった。雪の存在がより身近に感じられ る素敵な一冊です。
→著者別[ノンフィクション]
→ジャンル別[エッセイ・ノンフィクション]
→テーマ別[モチーフ]
少女をテーマにした随筆集です。少女時代の想い出や、男性からみた少女など36編。
「少女」と聞くと、私の少女時代やいくつかの小説が浮かんでくるのだけど、そのどれと
も趣向が異なり、それぞれ違った味わいがあります。
収録作品
少女栄え―抄(室生犀星);柿(夏目漱石);わが少女の日―抄(平塚らいてう);楠
さん(与謝野晶子);雲母片(宮本百合子);十五歳のころ(平林たい子);処女時代
の追憶―断片三種(岡本かの子);投書時代(吉屋信子);私の先生(林芙美子);新
しく惚れた人を(宇野千代);大人のうそ(網野菊);夢うつつの記(抄)(円地文子)
;幼な友だちのこと(佐多稲子);竹久夢二私見(城夏子);青春三音階(有吉佐和子)
;「サヨナラ」がいえなかった(佐藤愛子);私は魚か?(大庭みな子);夢の家(津
島佑子);家出・放浪をかさねる(原笙子);あのひとは複雑な家庭で悩んでいるのよ
「暗い私」と「明るい私」(宮迫千鶴);私の中の少女たち(如月小春);みかん(馬場
あき子);オトメの読書(篠田桃紅);雪の日(石井桃子);ほんの少し前 ほか二篇
(江國香織);私はどちらも選べなかった(佐野洋子);名前も知らない人たち(岸田
今日子);針箱(高田敏子);妖精のドレス(永田萠);初めてのお年玉(青木玉)
;雲のいる空 X(吉行理恵);思い出の岸辺(木野花);すてきな十六歳
Happy Birthday, Sweet Sixteen(柴田元幸);多感な少女たち 吉田秋生『櫻の園』
(川本三郎);〈生涯一美少女〉ジェーン・バーキン(松浦理英子);「良い先生」と
「悪い先生」(山田詠美)
レースやフリル、花模様の可愛い洋服が着れなくなった感傷を描いた妖精のドレス(永田 萠)は、自分がそこにいるんじゃないかというくらい同じ気持ちで胸がキュンとなり切な くなる。走るとヒラヒラ揺れるフリルに、クルンクルンの巻き毛、大きなリボン。手の届 かないそれらを遠めに眺め、羨ましげに見つめる自分の姿がありありと思い出されるので す。
初めて持った針箱のときめきを描いた、針箱(高田敏子)は、少女の喜びが手に取るよう に伝わってきます。大人への道は果てしなく遠かったからこそ、一歩一歩が実感できて、 また少し近づけたかなと胸を躍らせる少女が自分と重なる。
「少女」は描く人の数だけ、多様な「少女」が存在し、息づいているように思う。自分と 異なる少女は、自分には成り得なかった憧れの存在であり、こうなりたいという空想の中 の少女であったりする。ときめきも、疼きも、もう同じように感じることはできないから 過ぎし日に想いをとめ、浸りたくなるのだ。
→著者別[ノンフィクション]
→ジャンル別[エッセイ・ノンフィクション]
→テーマ別[乙女のための本]