エトルリアの微笑み | |
病気の治療のため、息子夫婦と暮らすことになった老人。
彼には、残された命が短いことがわかっていた。
息子夫婦の暮らす都会ミラノは、それまで彼が住んでた田舎とは違い、イライラするばかり。食べ物、生活様式から、価値観、育児の仕方など、我慢のならないことがいっぱい。
老人の独白が多いこの小説。そこから伝わってくる彼という人物は、バイタリティーに溢れていて、凛々しく、太い眉毛に彫りの深い顔立ちを想像する。でも、頑固で気難しそう。
オシメを取り替えたり、ミルクを与えるのは女性の仕事。
そんなことを自分がやったら、男が下がると思っている。
生後13ヶ月になる孫と出会うことで彼は大きく変わります。
赤ちゃんの衣服のボタンが、自分のごつごつした指では上手くかけられない。
そこで、衣服をこっそり持ち込んで練習をはじめます。
オムツを上手くはかせられず格闘する老人。
子供のため、いつしかタバコも吸わなくなり、毎日ひげを剃るという変わりよう。
腕に子供の重みを感じ、毎日何かを語りかける老人。
好奇心いっぱいの眼差し、疲れを知らない手ぶり、柔らかい皮膚。
子供のすべてが驚きで、突然泣き出せば、すぐに飛んでいったりしている姿が、微
笑ましく心温まるのです。
まだ言葉を話せないこの孫の存在は、老人に、色々なことを気づかせてくれる。
だんだんと気持ちがほぐれて、今までみえていなかったものや、心の奥深くに眠っ
ていた過去の思い出を、違う形に変えていく。
眠っていた感覚を呼び覚まされるような……今までとは違う不思議な感触に包まれる。
清らかで美しいラストが素敵。こんな最期迎えたいなぁ。