田園交響楽 | |
身寄りのない盲目の少女ジェルトリュードを、牧師は良心からひきとります。
この少女は、耳の不自由な老女に育てられたために(というより食べ物だけを与えら
れ、ほって置かれていた)話すことができません。
いつも無表情で、表情が変わる時といえば、人が近づいてきた時だけ。誰かが近づくだけで敵意を示す。
食事の時には、差し出す皿に獣のようにがつがつと飛びついたりする。
牧師は彼女にひとつひとつ言葉を教え、熱心に根気強く教育して行く。
初めは善意からの行いと思われていた牧師の行動も、いつのまにか彼女への恋心に
変わり、そのことには目を向けず、無私の愛だと信じ込もうとしているのです。
ジェルトリュードもまた、牧師の気持ちには気づいていて、罪の意識を感じな
がらも、ズルズルと愛されるままになっています。
そんな牧師を冷めた悲しい目でみる妻のアメリー。彼女に恋をする息子のジャ
ック。それぞれの葛藤、絶望、悲劇が残酷な結末へと導いていきます。
開眼手術により、目がみえるようになったジェルトリュード。その直後に、彼女は川
に身を投げて死のうとする。彼女にいったい何があったのか、何がみえたのか。
彼女が語った言葉が衝撃的でした。
みえないことの幸せ、みえることの不幸。
彼女に人間の醜いものを教えてこなかった牧師。
安心させて欲しいわけではない、嫌なことも知っておきたいと言うジェルトリュード。
アメリーは言葉では多くを語らず無言で訴えかけてくる。頑なに自分達の生活を守ろうとし、変化を極端に恐れる。 夫婦仲はいつのまにか冷え切り、修復不可能となる。
盲目という大きなテーマだけでなく、人物の描き方に奥行がある。
人はいかに不安定で迷いやすいのか、善と悪とでは分けられない複雑な心境が、それぞれの人物を通して
伝わってきます。人間の弱さ、もろさ、本質が短いなかに濃縮されているのだ。