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スーザン・ヒル作品

雪のかなたに

雪のかなたに/スーザン・ヒル 著


あの冬、ドーセットの村で迎えた最後の聖夜。いま、幾歳をこえ、押し寄せてくる思い出は、雪のかなたのランタンの灯のように、黄金色にまたたいている…。「…ゆうべ、雪が降った。思い出が押し寄せてきた。忘れていたなにもかもが」少女だったファニーの、あの冬のクリスマス。枯れ草色のレディマンの丘につもった雪が、ランタンの灯をうつす。宝物のようにしまわれていた記憶の中の聖夜が歳月を越えてよみがえる。 (「BOOK」データベースより)

山肌にみえるラベンダーブルーの淡い影、風のうなり、鳥の呟き、炎のゆらめきが照らす蔦や柊の緑の葉。ファニーは、あらゆる五感を働かせ、美しいものをめいっぱい感受する心の豊かな少女です。踊りたくなるような胸のときめき、子どもらしい子ども時代は懐かしく、大人であることを忘れ惹きこまれてしまう。

年を重ね老婦人となったファニーが回想するクリスマスの3日間。ごく平凡な日常が描かれているにも関わらずこんなにも胸に響くのは、あの家で過ごしたクリスマスが村で過ごす最後のクリスマスになってしまったから。一緒に過ごした人々がもういなくなってしまったから。語り合える仲間はもういない、最後の一人になってしまったから。

「ゆうべ、雪が降った。と、思い出の波が寄せてきた」
「みんなみんな逝ってしまった」
何度か出てくるこのフレーズが切なく響いてきます。

宝物のような記憶を抱きしめている少女の存在が愛おしい。心にほんのりとした灯りがともり、優しさがジワジワと広がっていくようです。

兄ウィルが戦争で亡くなったこと、エピローグで語られる「あの日を境に、すべては変わった」という独白から、辛く険しい道を歩んできたことが察せられます。闇があるからこそ、一抹の光が眩しく映ります。あの3日間がかけがえのないものに思えてくるのです。

→著者別[海外小説]
→ジャンル別[一般小説]
→テーマ別[クリスマス][美しい風景描写]


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