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ジャミラ・ガヴィン作品

その歌声は天にあふれる

その歌声は天にあふれる/ジャミラ・ガヴィン 著


舞台は十八世紀の英国。行商人オーティスは、望まれない赤ん坊をロンドンにある「コー ラム養育院」に連れていく、慈善の仲買人として知られていた。だがオーティスには、実 は恐ろしい裏の顔があった。残忍な仲買人の父と汚れなき魂を持つ息子ミーシャク、ミー シャクが心寄せる天使のような少女メリッサ、メリッサと惹かれあう領主の後継ぎアレク サンダー、そしてアレクサンダーとともに音楽家になる夢を追う、貧しくも撥刺とした少 年トマス。やがて、メリッサがある秘密を抱えてしまったとき、少年たちの運命にオーテ ィスの影が…。様々な人物が織りなす愛と友情、絆と葛藤。物語を彩る音楽の描写が美し い余韻を残す、痛ましくも力強い群像劇。二〇〇〇年度ウィットブレッド児童文学賞受賞、 カーネギー賞候補作。10代から。 (「BOOK」データベースより)

道すがら、赤ん坊や子供達を預かっては、奴隷として売りさばき、役に立たない赤ん坊は どぶや池に捨てられていく。序盤から衝撃的な展開を迎えるこの本は、哀しさに満ち溢れ ている。逆らうこともできず、逃げることも出来ず、オーティスにいわれるままに実行し ていくミーシャクがあまりにも痛々しくてみていられない。

ミーシャクの周りに時折、現れる亡霊。夢にまでみることもあるし、森を歩いていても木の 枝が幼児の身体にみえたり、早瀬の音が嘆きの声に聞こえてしまう。どこまでが夢でどこ からが現実なのか区別がつかないほど、絶えず追い込まれ、沈んでいくミーシャクが哀れ でならない。

裕福な家庭に育ったアレクサンダーも、彼に惹かれるメリッサも、みんな苦悩を抱えてい て、物語の視点が変わるたび、様々な人物の心模様がみえてきます。アレクサンダーと共 に音楽家を志すトマスの抱えるコンプレックス、第二部で登場するみなしごのアローンや トビーも言い知れぬ孤独を抱えていて…。たくさんの子供たちの想いに触れるたび、胸が 締め付けられ言葉を無くしてしまう。

一方、周りを取り囲む大人たちの極悪ぶりの凄まじさ。自分たちの利益のことしか頭にな く、子供達を人形代わりに、あるいは奴隷のように扱う。18世紀の英国では、このような ことが実際行われていて、孤児院や養育院に入れたとしても環境は劣悪、道には骨が散乱 していたそうです。

暗く重いお話だけれど、読み終わって感じるのは人が人を想う心、「愛」です。ねじれた 愛、深すぎる愛、一途な愛。さまざまな「愛の形」がポトリと胸に落ちてくる美しい作品 です。

→著者別[海外小説]
→ジャンル別[児童文学・絵本]


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