クリスピン | シャーロット・ドイルの告白 |
舞台は中世のイギリス、大荘園領主の支配下にあり自由はない。夜明けから日暮れまで休
みなく働く毎日だった。
村に住む13歳の少年。彼に名はなく、アスタの息子と呼ばれていた。母が亡くなり、亡
骸を教会へ運んでいくところから物語は始まる。
彼には父がいない。村人たちからは、なぜかつまはじきにされ頼れる人は誰もいない。神
父だけが唯一気にかけてくれる存在だった。のちに神父から、彼の名がクリスピンだと知
らされる。
たった1人になってしまったクリスピン。その直後どういうわけか窃盗と殺人の濡れ衣を 着せられ村を飛び出す。村から一度も出たことのなかった彼にとって、ここから出ること は大きな冒険なのでした。お腹を空かせ寒さに身を震わせ、孤独と絶望を初めて知った。 道すがら「熊」という不思議な男に出会ったり、母の残した鉛の十字架の謎や、追手から 逃げまくる様子などハラハラドキドキがいっぱい。
熊と辿り着いた町でのクリスピンの視点が実に見事に描かれています。馬車や人の多さ、 人々の服の色の違い、窓のたくさんついた建物。ごく普通のことでも彼にとっては珍し いものばかりなのですね。あんなに臆病だったのに、すっかり好奇心旺盛になってしま っている。目を奪われきょろきょろしている様子がとっても楽しそう。
たくましくなっていく彼、迷いを振りほどき大きく進んでいくその姿は勇気に溢れてい
ます。
自由とは何か、広い世界でみたもの、自らが切り開いていく道。冒険の旅は色々なこと
を教えてくれる。力が沸いてくるような、心弾むようなそんな読後感。
人はなんの前触れもなく恐ろしい事態に直面し、すぐに答えを見つけださなきゃいけない 時どのような心理状態になるのだろう。混乱、激しい動悸、事態が飲み込めなくて目が回 る思いなのではないだろうか。この本の主人公のシャーロットも、たった一人で船に乗り 込み、冷酷な船長への復讐計画に巻き込まれてしまいます。
優雅な令嬢生活を送っていた13歳のシャーロット。いつも大人たちに守られ、一人になっ たことなんてなかった。船員たちは、みんなむっつりしていて不機嫌、どこか怪しげな雰 囲気にみえるのです。
航海する間は、実にたくさんの出来事が起こります。そのたび、シャーロットは自分で考
え、迷い、答えを導き出していきます。足がすくみ、その場にへたりこんでしまうほどの
恐ろしさ。私もその場にいて、逃げられない事態に直面したかのように緊張感が走る。
彼女のすごいところは、足がすくんでも、震えていたとしても勇気を持って行動するとこ
ろです。
たくさんの経験を重ね、自分で選択し、掴み取っていくその姿は、力強さが感じられま
す。船に乗る前と後では彼女のみる世界は180度変わったのではないでしょうか。心に消
えることのないキラキラした宝物を抱え、船上での出来事は彼女の忘れられない思い出と
なることでしょう。
暗く長いトンネルからやっと抜け出し、その先には明るく真直ぐな道が広がっているよう
な、そんな清々しい読後感。
→著者別[海外小説]
→ジャンル別[児童文学・絵本]
→テーマ別[山岳・海洋・航空小説]