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吉田修一作品

初恋温泉

初恋温泉/吉田修一 著


初恋の女性と結婚した男。がむしゃらに働いて成功するが、夫婦で温泉に出かける前日、 妻から離婚を切り出される。幸せにするために頑張ってきたのに、なぜ―表題作ほか、 不倫を重ねる元同級生や、親に内緒で初めて外泊する高校生カップルなど、温泉を訪れ る五組の男女の心情を細やかにすくいあげる。日常を離れた場所で気づく、本当の気持 ち。切なく、あたたかく、ほろ苦い恋愛小説集。(裏表紙より)

舞台はみんな温泉で、そこに泊まる男女の恋愛模様が描かれています。日常を離れ、星の 瞬く山間の露天風呂へ。しっとり癒される話かと思っていたのだけど、そこにあるのは、 離婚寸前のカップルが出てきたり、気持ちのスレ違いから言い争う場面も出てきたりと 穏やかではありません。だけど、非日常という空間のせいか、心が解され色んなことに 気づいたり、ハッとしたり、しみじみしたりと味わい深い作品となっています。

表題作である初恋温泉は、上手くいっていると思っていたのに、いつのまにか壊れてい て、もう取り戻せない溝の大きさが繊細に描かれています。
幸せの形は人それぞれ違うもので、自分が幸せだと思っていても、相手の求めるものと は違うんだということを強く意識しました。頑張ってきたのに……どうしても埋められ ない溝の前で唖然とする主人公の姿が余韻を残します。

最後に出てくる高校生カップルの話は、真直ぐで、ラブラブすぎてみているこっちが照 れてしまうほど。こんなに好きだからこそ、確かめたくなる。この気持ちはずっとずっ と続くものだと信じて疑わなかったあの頃……
私が高校生の頃も、こんなような会話してたなぁと懐かしいような、ほろ苦いような気 持ちになりました。

宿に辿り着いてからの自然描写も魅力の一つになっています。
湯飲みを置く時のコトンという音や、自分の声がいつもより響いているように感じたり と、人里離れたところに来ているという雰囲気を楽しませてくれます。
「風がみえた」という感覚の表現とか、無音という耳の奥のほうで鳴る山の音とか、み えないけれどすぐそこに自然が感じられたのでした。

→著者別[国内小説]
→ジャンル別[恋愛小説]
→テーマ別[モチーフ]


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