恋愛中毒 | 群青の夜の羽毛布 |
主人公水無月は地味で目立たない女性です。だけど何かが謎めいている。
最初は寂しい人なのかな、飢えてるのかなと思い、読み進めるうちに本当の姿がみえてきます。
真面目で常識的な人だと思ってたら、厭味な言い方をしたり、一見相手を思いやるような言葉をかけていながら、その裏には計算高い思惑があったり。
下手にでて相手を油断させて思うように事を進めたり。
彼のことを独占したいタイプなのかなと思ってたらちょっと違うみたいだし。
水無月と小説家創路とのやりとりもおもしろい。
2人がまったく対極にあり、話せば話すほどお互いの違いがみえてきて、水無月の
とまどいや揺れがみえるのと同時に、どんどん振り回されのめりこんでいく様子が
怖かった。
創路のセリフを通して創路の考え方、世界観が垣間見える。
行動的でストレートなのだ。豪快で自由奔放に生きていて、わがままだ。
だけど、こんな風になんでも思ったことを全部いってしまえる人をみて、気持ちいい
と思った。
恋愛っていうのは、キレイなものばかりじゃない。夢中になって熱くなっているう ちは、傍目には驚くほど滑稽だったりする。水無月のような女性には共感はできな かったが、次から次へと起こる展開にページを読む手がとめられなかった。
ここに描かれている家族は憎しみ、嫉妬に満ちて殺伐としている。
家庭の中は冷え切って愛情がない。すでに崩壊しているのに離れようとしない。
毎日顔を合わせ、一緒にご飯を食べ生活し、その生活に何を求め、どこに向かおう
としていたのか。
厳格で自分しか愛せない「母親」おそらくこの母親も愛情のない家庭で育ったのだろう。
そんな母親に逆らえず何も言えない長女の「さとる」。反発しながらも逃げ
切れていない次女の「みつる」。謎に満ちていて終盤になってからその正体がわかる「父親」。
そしてさとるの恋人「鉄男」を通してこの家族の姿が浮き彫りにされていきます。
大部分の人が、この本に出てくる家庭ほどひどくなくても、多かれ少なかれ悶々と
した何かを抱えているのではないでしょうか。
神経質で電車にも乗れず、1人で外食もできず、仕事もできないさとる。
強い愛情飢餓感を抱えたさとるは、自立して自分の人生を歩いて行くことができな
い。
外側からだけみると、社会から外れたどうしようもない人だ。
この本は、そんな弱い人の立場を内面からリアルに描いている。
さとるの寂しさ、せつなさ、不安が痛いほど伝わってくる。
これほどまでに崩壊した家族は、お互いが自立し離れて暮らすしかないように思う。
親というものは、自分の子供だから言わなくてもわかるだろう。伝わってるだろうと思いがちだ。
期待や、こうなって欲しいという思いを押し付けてそれが愛情だと思っている。
自分の思うとおりにしようとするなんて傲慢なことなのに。
そして子供は、親というものは愛情をたっぷり与え、自分を包み込んでくれる大きな存在みたいな、何か過剰な期待をしすぎてる部分があるのかもしれない。
完璧な親などいないのに。
家族と言うものを深く考えさせられた1冊だった。