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上野哲也作品

ニライカナイの空で

ニライカナイの空で/上野哲也 著


父の突然の破産によって、東京を離れひとり九州の炭坑町へ向かう新一。待ち構えていたのは、父のかつての戦友・野上源一郎だった。鬼のような怖い形相に震え上がり、先の事を思い不安にかられる新一だったが、源一郎の息子・竹雄や、優しいおばさん、田川で出会う様々な人とのふれあいの中でたくましく成長していく。

舞台は1963年の福岡県田川郡。蒸気機関車が出てきたり、炭鉱事故が起こったり、木造の長屋、ボタ山が出てくるところは、異国情緒たっぷり。そして何より、方言が魅力的だ。ズバッと切り込むように、ビシバシと迫ってくるその言葉は力強い響きを持っている。

この年はオリンピックが開催される前の年で、東京は活気付いていた。そこからやって来た新一に、この街がどう映ったかの描写が印象的でした。
人が少ない。寂れている。炭坑はだんだんと閉山していき、空き家が多い。まだテレビのない家も多かった。けれど、みな助け合い、辛いことも笑い飛ばそうという、そこはかとない明るさが感じられて勇気付けられるのです。

気弱な新一とは対照的に、竹ちゃんは、わんぱくで元気いっぱいでカッコいい存在だ。迷いのない強い眼差しや、真剣に見据える表情、夢を持ちまっすぐ突き進んでいくところも、キラキラ輝いていて、すごく好き。
竹ちゃんに大いに影響されつつ、周りの個性ある人々との出会いによって、だんだんと新一が馴染んできて成長していく様子が心温まります。

伝馬船を1年かけてヨットに改造し、無人島を目指す二人。軽やかな風も、滑るように進んでいくヨットの情感も忘れられない。心細くもあるけれど、ワクワクするし、日常や大人たちから離れ、自分たちだけでの数日間は貴重な体験になると思う。

帰りの列車、もう今までの新一はそこにはいない。弱さは脱ぎ捨て、一回り大きくなった彼がいるのでした。まっすぐに未来をみつめている新一の姿が想像できるラストが清々しい。

→著者別[国内小説]
→ジャンル別[児童文学・絵本]
→テーマ別[異国情緒][子供の情景]


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