花が咲く頃いた君と | 檸檬のころ |
神田川デイズ | 東京・地震・たんぽぽ |
大切な思い出の中にその花はあった。花をみて、季節の終わりと失ってしまった時 間を感じたり、大好きだった人の言葉を懐かしんだり、好きな人を花にみたてたり。 大切な人を思うとき、花と共に風景が蘇ってくる。 4つの短編のどれもが、花をモチーフに描かれています。
1番大好きなのが『サマバケ96』です。
中学の時の学校の様子や、言葉遣い、考えていたことなど、等身大でのびのびと描
かれています。なんでもないような日常も豊島さんが書くことによって、鮮やかで
キラキラと輝くものに変わってしまうのはなぜでしょう。
私の中学のころを振り返ると、毎日が平凡で退屈で何もおこらなくて。何かドラマチッ クなことや、学園ドラマのような熱血先生がいたらいいなとか、大きな事を期待していたような気がします。
何もないと思っていた中学時代だったけど、小さな変化、ちょっとしたこと、些細
なことで心を揺らしていたことに気がつきます。それは、いつもは着ないような洋
服を思い切って買った時だったり、友達と2人きりでちょっと遠くまで出かけたり。
小さな小さな出来事だったけど、そんな小さなことに、すごく感動したり、喜んだ
り、心がグラグラと揺れてたんだなぁということを思い出します。
とっても狭い世界に生きていたからこそ、ほんの1センチ進んだ事が大冒険だったり、
それによって風景までもがガラッと変わってしまうのだ。
→著者別[国内小説]
→ジャンル別[青春・学園小説]
→テーマ別[モチーフ]
田んぼと山に囲まれた何もない田舎の高校が舞台です。
ここにでてくる高校生たちはみんな、地味で普通の人達ばかり。
だからこそ共感できる部分が多かった。
冴えない自分、気だるい気分、退屈な日々、重々しい空気。
感動的なシーンや、ハッピーエンドな話はない。だけど、リアルなセリフがいい。
そっけなかったり、ぶっきらぼうだったりするけ
ど、心の中はグラグラ揺れてたり。素直になれないから違うことをいってしまった
り。心の動揺がジンジン伝わってくる。
私の高校時代も、かっこ悪くて、情けなくて、不器用で小さな事に振り回されて戸
惑い、うまくいかないことが多かった。あの頃を思い出すと、胸がチクチクと痛む。
胸苦しいけれど、忘れられない。
地味だからこそ、ほんの一時やってきた小さいけれどささやかな幸せを、大事に抱
えていたような気がする。
この本は、そんな過ぎ去った時間を、一瞬にして流れていく時間を、濃密に描いて
いる。
東京の大学に通う学生達の、キャンパスライフを描いた青春小説です。
モテない、友達がいない、夢がないなど、どの主人公もパッとしない人ばかり。
劣等感を抱えた彼ら。理想がありながら、自分には無理と諦め、堕落していく人。自分は、
何者かになれるんじゃないかという大きな自意識。理想と現実とのギャップに揺れ、模索
する人。それぞれに悩みがあり、不器用ながらも前に進んでいく。
豊島さんが描く彼らの心の内は、時に、昔の私の思いに重なりはっとする。
大きな壁の前で立ちはだかってしまった私。いつまでもうじうじして、私なんてこんなも
んだよ、しょうがないと諦め、楽なほうに転がっていた私。自分のことを言われているよ
うで、ドキっとする場面が多かった。
期待と不安と憧れと理想。色んな想いを胸に秘め、入学する彼ら。その想いは何かのきっ
かけで、あっけなくしぼみ、だらだらと流されてしまう。周りの人とノリが違ったり、み
んなと同じようにワイワイ騒げなかったりして距離を感じる彼ら。
本当に目立たない影のような存在の人達だけど、どこにでもいる普通の人とも言えるので
はないでしょうか。
うだうだしていて、いつまでも煮え切らない彼らに、もどかしくなったりもしたけれど、
私はこういう人達をみると応援したくなるのです。
東京で震度6の地震発生、その時何を思ったのか、どう行動したのか――子供、主婦、アイ ドル、サラリーマンなど、14人の人々を描いた短編集です。
地震が起きた直後、人は何を思うのだろう。辛さ、哀しさ、苦しさ、絶望に襲われ、起き 上がる気力もなくしてしまうかもしれない。ここに出てくる人達はそれよりももっと前の 段階。この事態をまず理解しようと努め、呆然と目の前で起こっている事を眺めているよ うな感じ。
特に公園の東屋の下に生き埋めになった主婦の話が印象的だ。目の前が真っ暗で何もみえ ない怖さ、動かしたつま先の感触から、足元には娘がいるらしいこともわかる。かろうじ て側にはバックがあり、携帯の電波も届いている。すぐに助けを呼べばいいものをブログ に投げやりな文章を送ってしまう。
私がもしそうなったなら、同じようになってしまうかもしれない。
いくら目を凝らしてみても何もみえない。悪夢をみているようで今起こっていることが信
じられない。場所は誰もいない広い公園の片隅だったとしたら・・・・・・
現実に立ち向かう勇気なんてポキッと折れてしまいそうだ。主人公の脱力した心理状態が
リアルで寒気がする。
母親と妹を無視して宝物を持って逃げた男の子や、自分の通う学校が非難場所になり、い
つもと違う光景にワクワクする子供たち。それぞれの心象風景があり、色んな人の心の奥
底を覗けます。
テレビでしかみたことのなかった大地震だけれど、現実に被害に合った人達はこんな気持
ちなのかなと想像しながら読んだ。
→著者別[国内小説]
→ジャンル別[一般小説]
→テーマ別[モチーフ]