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高橋治作品

風の盆恋歌

風の盆恋歌 /高橋治 著


死んでもいい。不倫という名の本当の愛を知った今は―。ぼんぼりに灯がともり、胡弓の音が流れるとき、風の盆の夜がふける。越中おわらの祭の夜に、死の予感にふるえつつ忍び逢う一組の男女。互いに心を通わせながら、離ればなれに20年の歳月を生きた男と女がたどる、あやうい恋の旅路を、金沢、パリ、八尾、白峰を舞台に美しく描き出す、直木賞受賞作家の長編恋愛小説。 (「BOOK」データベースより)

20年もの月日が流れ、パリでの再会。八尾に家を買い、1年に3日だけの逢瀬。設定がドラマチックで映画をみているみたいです。そして何より、人も街も生き生きとしていて、行ったことのない街なのに、情景が鮮やかに浮かび上がってきます。

二人が過ごす三日間は、ちょうどおわら風の盆の頃。川の水音、踊りの列にたくさんの人垣。このお祭りは賑やかなのとは違い、どこかしっとりとしたもの悲しさが漂っている。まさに寄り添う二人の雰囲気にぴったりで情緒があります。

人生をただひたすらに走り続けてきた。ふと立ち止まり想い出すのは、遥か昔、恋焦がれていた学生時代のあの人。もしも出逢わなければ、こんなにも烈しく燃え上がることもなかったのに……

胸の底に眠っていた淡い恋心。先がみえていてこれからもずっと変わらない人生と、真っ暗でどこに行き着くかわからない茨の道。
後者を選んだなら相手の心が見えないだけに、手探りで進むしかない。お互いに家庭もある。月日が流れたなら、姿かたちも変わるし、心変わりだってする。私だったら、きっと不安で何度も愛を確かめずにはいられない。逢えない一年で交わした手紙のやりとりから、ひたむきさと情熱が伝わってきます。

流れに身をまかせ収まった先が、今ある家庭という鞘。特別の不満もないけれど、幸せの実感もない。こんなものかなと思い、日々をやり過ごす人のほうが多いと思う。

祭りという舞台が、日常から隔離された夢のような雰囲気を醸し出しています。強く求めることはなく、ほのかに胸の内だけに膨らませていく静かな愛。充たされることを望むのではなく、ひたすら待ち続ける忍ぶ恋。上品で奥ゆかしくて、こんな優しい時間を不倫と呼んではいけないような気がしてしまうのです。

→著者別[国内小説]
→ジャンル別[恋愛小説]
→テーマ別[異国情緒][婚外恋愛小説][モチーフ]


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