生まれる森 | ナラタージュ |
一千一秒の日々 |
失恋で心に深い傷を負った「わたし」。夏休みの間だけ大学の友人から部屋を借りて 一人暮らしをはじめるが、心の穴は埋められない。そんなときに再会した高校時代の 友達キクちゃんと、彼女の父、兄弟と触れ合いながら、わたしの心は次第に癒やされ ていく。恋に悩み迷う少女時代の終わりを瑞々しい感性で描く。(裏表紙より)
初めての恋、初めての失恋、10代の少女が恋をした時の揺れている気持ちが
友人やその家族と触れ合う中でよくわかります。
まだ好きなのかどうかもわからない、思い出すたび走り出そうとしてしまった
り……でもまた同じことを繰り返すのは嫌。自分の感情がわからない……
そんな揺れている気持ちが作品全体から淡くせつなく漂ってきます。
ずっともがいていて、抜け出したくても抜け出せなくて、前に進んでるつもり
でも、ただ同じところをぐるぐる回っている。
大人の恋とはちょっと違うけれど、少女がはじめて恋をした時ってきっとこん
な感じなのだと思います。少女の不安定さがよく描けていると思います。
お願いだから私を壊して、帰れないところまで連れていって見捨てて、あなたにはそう する義務がある―大学二年の春、母校の演劇部顧問で、思いを寄せていた葉山先生から 電話がかかってきた。泉はときめきと同時に、卒業前のある出来事を思い出す。後輩た ちの舞台に客演を頼まれた彼女は、先生への思いを再認識する。そして彼の中にも、消 せない炎がまぎれもなくあることを知った泉は―。早熟の天才少女小説家、若き日の絶 唱ともいえる恋愛文学。 (裏表紙より)
泉のまっすぐな気持ち、恋愛という波にどっぷりと浸かり、常に揺れている気持ちが痛いほど伝わってきます。
内面には、好きで好きでどうしようもない気持ちを持っているのに、言葉はとても
控えめな泉。
でも、彼にみつめられた時、彼が触れたときの肌の感触、彼の顔が近づいてきた時
などに、ちょっとした行動で揺れる泉の気持ちが、たくさんのキレイな描写で綴ら
れています。まるで泉の体温までもが伝わってきそう。
読んでいて、もどかしく、時に息苦しくなりました。
そんな気持ちを、激しい思いをもっと葉山先生にぶつけてしまえばいいのに。
もっと、壊れてもいいのに。激しく求めてぶつかり合ってもいいのにと。
もどかしくも、どんどん惹きこまれてしまいました。
仲良しのまま破局してしまった真琴と哲、メタボな針谷にちょっかいを出す美少女の一紗、誰にも言えない思いを抱きしめる瑛子。真剣で意地っ張りで、でもたまにずるくもあって、でもやっぱり不器用で愛おしい。そんな、あなたに似た誰かさん達の物語です。いろいろままならないことはあるけれど、やっぱり恋したい、恋されたい―『ナラタージュ』の島本理生がおくる傑作恋愛小説集、待望の文庫化。 (「BOOK」データベースより)
『風光る』
遊園地でデートをする真琴と哲。楽しいはずのデートはなぜか不穏な空気が漂い、その後二人は…
「別れよう」の言葉は切り出さなくても、終わりが見えていて、二人の遠い距離感と息が詰まるような居心地の悪さがジワジワ伝わる。別れの予感を感じた時には、もう終わっている。一緒にいても、もう何をみてもつまらなく、過去の幸せだった思い出を覚めた目で眺める真琴にゾクリとする。
『青い夜、緑のフェンス』
太っていることがコンプレックスの針谷くんと、美少女一紗ちゃんの物語。一紗ちゃんの奔放ぶりも発言も可愛かったし、それに振り回される針谷くんが優しくて好き。
『新しい旅の終わりに』
恋人だった加納くんと旅行することになった真琴。付き合ってたといっても、デートの後、加納くんが家まで送ってくれるような間柄だった。いったいどんな旅行になるのか、緊張しながら旅の日を迎える。
昔付き合っていた人と、こんな風に、再びいい関係になれるのって素敵だし、憧れる。別れて別の人と付き合ったりしてまた出逢ったなら、お互い大人になって上手くいくこともあるのかもなぁと思いました。
恋が終わった時の喪失感。あんなに好きで忘れられなかったのに、いつのまに冷めてしまった時の寂しさ。恋をしてる時のいくつもの感情が胸にさざ波を立てていく。その感情はあまりにもリアルで、あまりにも生々しく、かつての自分をみているようです。
ここに出てくる人達は、みな不器用でちょっとしたことにつまづき傷ついてしまう。弱いけれど、一生懸命なのがわかるから応援したくなる。
今は、恋人でもなく友達でもない二人だけど、ゆっくりと時間をかけて、良い関係を作り上げていくんだなぁと予感させるラストが良い。