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小川洋子作品

ミーナの行進

海/小川洋子 著


ここにはここだけのゆっくりとした時間、静かな空間がある。日常を忘れて この独特の世界にどっぷりと浸かることができました。
7つの短編のうち、特に好きなのは、『バタフライ和文タイプ事務所』と、『ひよこトラック』

『バタフライ和文タイプ事務所』
和文タイピストと活字管理人のちょっ ぴりエロチックな会話のやりとりに胸がドキドキ。
活字管理人は活字を愛しているのでしょう。欠けてしまって使えなくなった活字へ の思いを語ります。身体の部位に関する活字がたくさん登場するのですが、この管 理人が語ることによって、それが1つの小さな命のように愛しく感じられてしまう のです。

『ひよこトラック』
ホテルのドアマンと、言葉を話さない6歳の女の子との交流が描 かれています。
少女の唐突な行動に戸惑い、なんと言葉を返したらよいものか思案 している様子にユーモアを感じる。
少女の意図がわからず、考えないようにするのだけど、いつのまにか気にかけている。
その様子から、男の生活は平凡で孤独な日常だということが想像できる。
言葉を介さなくても一緒に同じものをみて、同じ時間を過ごし、共有することによって繋がり合える何かがある。
こんな形で出会い、通じ合えた2人は素敵だなぁと思いました。

→著者別[国内小説]
→ジャンル別[一般小説]


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ミーナの行進/小川洋子 著


朋子は小学校卒業後、叔母の住む芦屋の洋館で一年間を過ごす。一歳年下で従妹のミーナ、 飲料会社社長のハンサムな伯父さん、叔母さん、ドイツ人のローザおばあさん、お手伝 いの米田さんなど、大家族の中で暮らす様子を朋子の視点から描いた作品です。

開森橋や高座川、図書館、洋菓子店など、芦屋の実在する地名や店名がいくつか出てき ます。街の風景や空気が感じられるので、近くに住んでる人にとっては懐かしく思える のではないでしょうか。
ミュンヘンオリンピックに熱くなり、ジャコビニ流星雨を観にいくなど、ミーナと朋子 の想い出の中には、1972年の実在するニュースがいくつも織り込まれています。

庭にコビトカバのポチ子を飼い、通学の時にはポチ子に乗って学校にいくミーナ。家族 もみな風変わりだけれど、この洋館がまたすごい。17ものお部屋に大理石の暖炉、ステ ンドグラス、シャンデリア、ペルシャ絨毯、光線浴室まであるというのだからびっくり する。

淡々とした日常だけれど、ひだまりの中に佇んでいるような暖かい気分になれた。
小さな小さな自分が見ていた世界はとても大きくみえたこと。迷子になってしまった時 のとほうもなく心細い気持ち。パフェを目の前にした時の夢のようなひととき。朋子の 体験はそのまま、私自身の過去へと結びつき、忘れていた記憶の数々を浮かび上がらせ てくれる。

病弱で入退院を繰り返していたミーナ。彼女の存在は、優しさの中に一物の不安を落と していく。儚げで繊細、いつかは終わってしまう少女という年頃。だからこそ、壊さな いようにそっと抱きしめるように読んでいた。

決して力が入らず、ほのぼのとした家族。でもみんなお互いを気にかけていて、思いや りと愛があって、みえない糸で繋がっている。こんな家族っていいなぁ。ずっと身を浸 していたくなる世界観です。
目まぐるしく過ぎていく日常に、緩やかで優しい時間を運んできてくれたのでした。

→著者別[国内小説]
→ジャンル別[一般小説]
→テーマ別[異国情緒][子供の情景]


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