遠くの声に耳を澄ませて | |
12編からなるこの短編集は、どこにでもあるような普通の話です。
それなのに、こ
んなにもキラキラと輝いていて、まっすぐに心にしみとおるのはなぜだろう。
ごくありふれた日常、主人公たちは迷いながら、悩みながら、もやもやとしながらも
生きている。そんな時の、滞ったものがフワッと開放される瞬間や、心に新鮮な風
が吹き込んできて、また歩き出そうという気持ちの変化を丁寧に描いています。
私達は、日々たくさんの人に出会い、色んな言葉を聞き、影響しあっているのだなと
思いました。
『アンデスの声』は、ささやかな幸せを大事にする老夫婦の話。
こんな素敵な旅もあるんだなぁ。毎日それを楽しみにしているこの夫婦が目に浮か
ぶようです。
『転がる小石』は、到底かなわないような相手に打ちのめされる陽子と梨香。
恋人に振られる梨香。受け止められなくて、戸惑って、逃げ回っていたけれど、ごく
自然な流れてその時期が終わり、前に進み始める様子が爽やかです。
『部屋から始まった』は、台湾に旅に出る話。
日常から遠く離れてそこから、いつも
いた場所を眺めている。離れてみてみると、とても窮屈な場所で縮こまっているみ
たいな。上から自分を眺めているような遠い視点。場所が変わることによる開放
感。旅はいいものだなと改めて思った。
立ち止まっても、そこからまた歩き出す主人公たちの姿が瑞々しく、力が沸いてき
ます。
悩みはどれも、誰もが抱える身近なことばかり。坂道を転がり落ちるように、
こんなにも簡単に人は崩れてしまうけれど、また立ち上がる力を持っている。
そっと背中を押してくれるような優しく勇気付けられる1冊です。