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小池昌代作品

裁縫師 屋上への誘惑
黒蜜

裁縫師/小池昌代 著


広大なお屋敷の鬱蒼とした庭の離れに、アトリエを構えるひとりの裁縫師。彼は、富豪の お抱えとも、息子だとも、愛人だとも噂されていた。ある日、9歳の「わたし」は、自分 の服をあつらえてもらうために、母に連れられて裁縫師のもとを訪れる。採寸され、数 日後にひとりアトリエを訪れた「わたし」だったが…。禁断の恋に身を任せる幼女を描 いた「裁縫師」ほか、詩情とエロティシズムあふれる新感覚短篇5篇を収めた珠玉の小説 集。(「BOOK」データベースより)

このエロティックさは、濃厚で刺激的なのとは違う。時折ほのかに香る花のようにしとや かで甘美なのである。一気に電流が駆け巡っていくようなざわめき。触れられ た部分は熱を帯び全身に波打つ。
開かれた甘い渦にズルズルと溺れていく 主人公。密かに望んでいた。待ち焦がれていた。それがやってきたとき、自分のなかに潜 む激しさに驚くのだ。

知らなかった少女が開花する時とは・・・・・・
まだ何も起こらなくとも、予感を感じた時 からもう始まっているのかもしれない。その手がもしもここに触れてくれたなら・・・・・・そ の唇が一気に近づいてきたならば・・・・・・
感情の動きが細やかで、主人公の胸に残る情景が自分の体験のように思えてくる。

5篇のうちファンタジー風味のある『左腕』も好き。同じ場面が繰り返されるのだけど、 いくつもの層から成り立っているからさっきとは違う。夢と現実がごっちゃになって、ふわ ふわと浮遊しているこの頼りなさが好き。

全篇を通じて統一された温度や空気感は、ただ静かに横たわっている。なまぬるい風は、 違和感なくスーッと入り込み新鮮な通り道を作る。ザワザワ揺れる木々は心を揺さぶり、 煌めく言葉たちは密やかに胸に降り注いでいく。
詩情溢れる文章から、空気の中で交わされる押したり引いたりの、無言の会話までみえて くるようです。

→著者別[国内小説]
→ジャンル別[一般小説]
→テーマ別[詩的な小説][エロティック]


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屋上への誘惑/小池昌代 著<エッセイ>


日常の中にある風景を鮮やかに切り取ったエッセイ集である。40編近くもある話のどれも がよくあること、なんてことのない出来事なのだけど、著者の手にかかると、日常が異空 間に変わってしまうのがすごいところ。ある時は、神秘的に、ある時は幻想的に、不思議な世界に迷い込んでいる私 がいる。

いつもみているものがちょっと違ってみえたとき、私達はたいてい「何かが違うな」と思 うだけで、それ以上思考しない。すぐに通り過ぎてしまう。詩人はそこでふと立ち止まり、 一瞬で過ぎ行く感覚を上手く捉えるのだ。繊細に緩やかな速度で紡ぎ出される言葉たちは、 まるでその場に居合わせたかのように、心にさざなみを立てていく。

世界というものは、なんと不確実なものか。目にみえる出来事よりも、みえない中に訴え かけてくるものがどれほど多いことか。人や自然や植物は、ただの物体などではなく、 「圧倒的な存在感」という気配を漂わせることもある。空気を揺らし熱くさせることもあ る。思考はものすごい速度で進み、人は無自覚の内に、様々な感触を受け止めているのだ と思う。

沈黙から生まれるものについて考えてみた。親しい間柄の私とあなたの会話の場合。無言 の時間は、何も考えない「無」ではない。言葉は出てこないけれど、心を添わせよう、繋 いだものを離さないようにしようという共通の思いが働いている。いわば同じ空間にある 「無」をみつめ、共有しているといえるのではないだろうか。
読後、そんなことに思いを巡らしてしまうのは、普段は使わない感覚を揺さぶられたせい かもしれない。

→著者別[国内小説]
→ジャンル別[エッセイ・ノンフィクション]


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黒蜜/小池昌代 著


子供の世界を描いた14編のお話です。
子供時代というのは、もどかしい。好きな所にスイスイ泳いでいけるのではなく、流れの 速い川に、有無を言わせず飲み込まれ、勝手に進んでいく。途中、岩や木の枝をみつけて は、必死に手を伸ばし、なんとか流れを止めようとするのだけど自分の力ではどうにもな らない。

空想。周りにあるものがフッと遠のき、自分の世界が広がる。白い靄の中にあるその時間 だけは、どこにでも好きな所に飛んでいける。
「ご飯よぉ」こんなセリフでハッと我に返る。現実の風景が霞んだ目の前に少しずつみえ てくる。夢から覚めた時のように、しばしまどろむ。

天井の模様が人の顔に見えてきたりしたこと。じっとして何かを眺めていた倦怠。
こういう時間は、人と会話している時には得られない、別なものをみたり吸収しているの だと思う。
びっしりとスケジュールを埋め、頭も身体も忙しく働かせている大人とは対照的で、受け 入れる間口が広がっている状態といえる。

無為の堆積から生みださせるもの。言葉は放った瞬間から別のものに形を変えてしまうか ら、言葉にならず胸の内に暖めてきたものは魂の糧になるのではないだろうか。

本文に好きな言葉がある。
「無為の時間に心身が侵食されていくのを、ただうっとりと味わっていた」

心がちぎれたような悲しみ、ちくりと刺さる棘の感触。子供の世界は瑞々しいと同時に 不穏なのである。

→著者別[国内小説]
→ジャンル別[一般小説]
→テーマ別[子供の情景]


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