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小池真理子作品

柩の中の猫 夢のかたみ
ひぐらし荘の女主人 無伴奏
ひるの幻 よるの夢

柩の中の猫/小池真理子 著


麦畑と雑木林が続くその一角にその家はあった。美しい庭に池、無造作に並ぶ白 いガーデンチェアやテーブル。日本とは違う異国の地にきてしまったような、ゆるや かな時間の流れに静謐な空気。目前に広がるその風景に、何かが起こりそうな予 感を漂わせている。

川久保家に暮らす悟郎とその娘の桃子、猫のララ。そこへ桃子の住み込みの家庭 教師としてやってきた雅代。その後やってくる千夏という女性。
雅代の一人称で語られるのですが、それぞれの気持ちの細やかな動き、表情、人 物像などが目の前でみているかのように浮かび上がってくる。

悟郎を慕いながらも、想いを伝えることなく遠くからみつめる雅代。猫のララにし か心を開かない孤独な少女桃子。ララと桃子が麦畑を走り回る様子はとても美しく、 雅代と桃子がだんだん打ち解けてくる描写も心地いい。
千夏が加わることにより、穏やかな暮らしは一転、波紋を呼ぶ。
嫉妬、恨み――それらが残酷な結末へと導いていく。
人間のダークな部分に深く迫ったこの小説は、切なくただただ哀しくなるのでした。

→著者別[国内小説]
→ジャンル別[ミステリー・サスペンス]


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夢のかたみ/小池真理子 著


5つの短編からなっています。
表題作の『夢のかたみ』は、昔の恋をずっと胸に秘めている女性の話。
主人公は65歳になる女性随筆家。1枚のモノクロ写真に込められた意味。 過去の恋は、色あせることなく、その想い出とともに今を生きている。 懐かしさがジーンと込み上げるラストが素敵です。

『チルチルの丘』は昔付き合っていた男女が、偶然10年ぶりに出会う話。
今は大人になり、お互い家庭のある2人が、昔を懐かしみ思いやりを持って、お互 いを気遣う様子が心地いい。
『路地裏の家』は真佐子が小学校時代に、よく遊びにいった近所のお姉さんの話。 数十年後、真佐子が結婚し子供を持ち、お姉さんのことを思い出す。
『ディオリッシモ』は37歳の女性が11歳の頃に戻ってしまうお話。
これが、1番ノスタルジックで好き。町並みも、土地の匂いも、家族の何気ないおし ゃべりも、未来からやってきたもう1人の自分がいて、のぞきみることができるな んてドキドキ。
『約束』は男女の約束、美しい誓いです。それは、10年後に……というずっと先の 約束なのだけど……

失われた時間、戻れないあの頃の楽しかった日々。哀感がひしひしと伝わってくる 作品もあれば、その頃の日々を大切に胸にしまい、今を生きている人もいる。
過去がふわりと立ち上がり、匂いや空気までもが伝わってくるような美しい描写に うっとりしてしまうのです。

→著者別[国内小説]
→ジャンル別[ミステリー・サスペンス]


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ひぐらし荘の女主人/小池真理子 著


表題作である『ひぐらし荘の女主人』と『花ざかりの家』『彼なりの美学』の3篇を収めた 短編集です。

『ひぐらし荘の女主人』偶然出会った美しい女性藍子に惹かれる売れない役者正巳。ひぐら しが鳴き乱れる屋敷に暮らしているという彼女は銀行頭取の妾だった。すっかり彼女に翻弄 され、言われるまま、あることを実行するのだが……
藍子の放つ言葉のひとつひとつにドキリとする。正巳からみると、極めて純粋、無垢であ る。だが、そのあどけない表情からは読み取れない計算高さ、悪が潜んでいる藍子の存在 が艶かしくもあり吸い込まれてしまうのです。

『花ざかりの家』手塚は15年前に妻の貴志子を亡くしている。自殺だった。貴志子が自殺す る原因となったのは、手塚の中学時代の同級生で今は画家である倉越だった。再びの再会で 倉越に自宅に誘われ訪れるのだが……
ひんやりと底のほうから染み込んでくるような怖さ。何か隠していそうな怪しげな雰囲気 が常にあり、みてはいけないものをみてしまった、そんな読後感。

『彼なりの美学』映画館を出た後、葉子に声をかけてきた不信な男性鉄男。最初は警戒していたも のの、失恋のショックもありついていくことにする。その後、同居するようになり奇妙な生 活が始まる。
鉄男は女性と交わることは一切しない。ただ鑑賞するのみ。葉子を賞賛し好きな服を着せ 飼育することでエロティシズムを覚える。葉子もまた、鉄男の愛でる視線により、美しさ をさらに育む。

性描写はほとんどないのに、そこに漂う気配は官能的です。その視線が、その言葉が、そ の発する空気が、濃密に色めきだって迫ってくるのです。翻弄され飲み込まれたら最後、 もう取り返しのつかない場所にいる。官能美の中に恐怖があり、その先には犯罪までも 絡んでくる。たっぷりと魅惑的な世界を堪能できた。

→著者別[国内小説]
→ジャンル別[ミステリー・サスペンス]
→テーマ別[エロティック]


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無伴奏/小池真理子 著


その果てに待つものを知らず、私はあなたを求めた―。多感な響子は偶然に出会った渉に 強く惹かれるが、相手の不可解な態度に翻弄される。渉に影のように寄り添う友人の祐 之介と、その恋人エマ。彼らの共有する秘密の匂いが響子を苛み、不安を孕んで漂う四 角形のような関係は、遂に悲劇へと疾走しはじめる。濃密な性の気配、甘美なまでの死 の予感。『恋』『欲望』へと連なる傑作ロマン。(「BOOK」データベースより)

舞台は仙台、60年代後半、学園紛争、デモが吹き荒れていた時代です。主人公である響子 は、喫茶店「無伴奏」で渉と出逢う。
魅力的だと思ったのが4人の男女の描き方。軽快なタッチで交わされる会話の中に漂う影。 陽気に振舞っているのだけど、ナイーブな一面もある。ここに流れる気だるさと憂鬱さは、 過ぎ去った青春時代を思い起こさせます。

青春時代、とりわけ初めての恋というのものは、不器用でぎこちないものである。 側にいるのに遠くに感じたり、少しでも目を離し、よそみをしていたら寂しく感じたり。
すべてを独占してしまいたい。ずっと私だけをみていて・・・・・・好きの気持ちが膨れ上が るほど不安や痛みも付きまとい、胸をチクチクさせる。こんなにも心をかき乱している のに平静を装い、大人ぶる響子が昔の自分をみているかのようです。

渉、祐之介、エマ、この3人の中に響子が加わることにより何が崩れていったのか。ゆっ くりとひずみが生じ、その果てに待っていた悲劇とは。
このテーマはとても重い。もしもあの時こうしていたら、どうなっていたのだろうと何度 も考えてしまう。後々までずっと引きずるやるせなさが残るのだ。

→著者別[国内小説]
→ジャンル別[ミステリー・サスペンス]


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ひるの幻 よるの夢/小池真理子 著


不能老人の持つ乾いた匂い、義理の息子への激しい肉欲、美に執着する醜い男、異端の老 作家の癒しがたい孤独、年下の青年の「手」の感触に惹かれる中年女性…。性愛だけでは ない、男女のひそやかなエロティシズムの世界を描いた六篇を収める。官能の世界を描き 続けてきた著者のエッセンスを凝縮した短篇集。 (「BOOK」データベースより)

日常の中に佇む淡い幻想とエロス。例えば彼のごつごつした手であったり、ふとこちらを みた時の視線だったり、仕草のひとつひとつにエロスを感じたりするのだ。彼が近づいて くる時の気配、すぐそこにいる時の彼から発せられる男の性、表面からではわかりえない 奥に潜んでいるものを覗きたくなる。

彼のシーツを取替え、食事の風景があり、シャンプーしてもらう時間があり、すべて何気 ない日常なのに、彼女達の視線からみた世界は官能的だ。熱っぽさを伴うような濃密な空 気に時折浮かび上がる幻想の数々。現実と虚構の狭間で気だるく漂い、幻想が消え去った 後、目の前にいる彼にクラクラしてしまう。

老人と若い愛人、妻と義理の息子、金持ちの未亡人と美容室の青年とか、現実にはありそ うもない設定なのだけど、するりと入り込めてしまう。
特に『シャンプーボーイ』に出てくる中年女性の一歩引いたような接し方が好き。惹かれ てはいるけれど、恋とまではいかない。身体が欲しいのではない、腕だけで充分。限りな く恋に近い、微妙な女心の描き方が絶妙です。

→著者別[国内小説]
→ジャンル別[ミステリー・サスペンス]
→テーマ別[エロティック]


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