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木内昇作品

漂砂のうたう

漂砂のうたう/木内昇 著


明治10年、舞台は根津遊廓の美仙楼。立番(客引き)をする定九郎の視点から描かれたこ の作品は、行き場のない空しさ、足場のない浮遊感が全編に漂っている。まげを切り、洋 服を着る習慣が広まり、武士は必要なくなり、娼妓解放令が出された。江戸から明治へと 移り変わっていく時代の空気が色濃く出ています。

定九郎のような人物が好きになれず、最後まで共感できない。物語がどこに向かおうとし ているのかもわからず、大きな修羅場があるわけでもない。終盤に入り、隠された謎が明 かされた時、やっと全体像が見渡せたような気がします。

定九郎とは対照的に、花魁、噺家など周囲を取り巻く人々は個性があって際立っています。 容姿だけでなく、知性もあって凛とした強さを備えた小野菊花魁。野暮な客にとった威勢 のいい啖呵、道中でみせた意地、自ら選び取ったカッコいい選択。彼女が出てくるシーン はどれも印象的です。

三遊亭圓朝の弟子・ポン太はすごく不思議な人物だと思う。一見抜けていてヘナヘナして いるように見えるのに、一緒にいると角が取れてつい乗せられてしまう。ポンポン飛び出 すセリフそのものが、落語を聴いているみたいにテンポよく流れてくる。突然ヌッと現れ てスルリと消えていく様は幽霊のようだし、いなくなってみると夢でもみてたんじゃない かと思うほど現実感がない。気だるさの中に新鮮な風を運ぶムードメーカーです。

遊廓が舞台の小説というと、悲恋だとか苦界の中でも凛と生きる人達とか、もっと切ない ものや生き生きとしたものを期待していたのだけど、ここに流れる空気は陰鬱でどんより しています。
めまぐるしく変わる時代、抗うでもなく上手く波に乗るでもなく、ただ流されている人々 の戸惑い。今まで触れたことのない不思議な世界観なのでした。

→著者別[国内小説]
→ジャンル別[歴史・時代小説]
→テーマ別[遊女・芸者]


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