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岸田理生作品

1999年の夏休み

1999年の夏休み/岸田理生 著


森と湖に閉ざされた、全寮制の学院の夏休み。和彦、直人、則夫、帰る家のない三人の夏に、一人の転入生が現れた。薫。和彦に恋し、自ら命を断った悠に瓜二つだった。四人の少年のためだけに、いつしか時間はとまり、永遠の夏休みが始まる―。幻の名作ファンタジー、小説版で遂に登場。(「BOOK」データベースより)

萩尾望都の『トーマの心臓』が原案の叙情的な作品です。中学生が絶対言わないような哲学的なセリフが多く、演劇をみているようでもあります。内容は、少年の同性愛を描いていて、こういうテーマは好みじゃないなと思っていたのだけど、読んでいくうちに惹き込まれていきました。

映画化されているため、いくつかの場面が写真で掲載されています。女の子が少年を演じたちょっと珍しい作品なのだけど、男性だとか女性だとか、だんだんそんなことは気にならなくなっていきました。

「振り向いてもらえない切ない愛」「愛される苦しみ」「愛が憎しみに変わり、憎しみがいつしか溶け、開放される瞬間」
性別を超えた様々な愛に胸が締め付けられます。

子供という時期が過ぎ去り、肥大していく自我の目覚め。心象風景が、空気の中にしっかりと漂い、重くのしかかってきます。ガラス細工のように繊細で、何重にも覆われた固い殻。その中には何者にも踏み荒らされたことのないピュアな感情が隠れているのでした。

誰にも注目してもらえない寂しさ、他人と触れ合うことに臆病になってしまった少年、嫉妬や憎しみ、思うようにならない苛立ち――少年たちの抱える迷いや悩みは、かつて自分も通り過ぎてきた道。置き忘れてきたあの頃の自分をみているみたいで心がざわつく。

少年たちを色に例えると、限りなく透明に近い白だと思う。初々しくてまっさらで触れるのがもったいないような遠くからみつめていたい存在。まるで人目につかない山奥にひっそりと咲く花のよう。まだつぼみなんだけど、もうすぐ開花することがわかっている美しい花のようです。

→著者別[国内小説]
→ジャンル別[青春・学園小説]
→テーマ別[詩的な小説][夏休み]


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