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川上健一作品

翼はいつまでも

翼はいつまでも/川上健一 著


舞台は青森県十和田市の中学校、野球部で平凡な神山君が主人公の青春小説です。
理不尽な大人たちの振る舞い、野球部員の心がバラバラになり、再び一つになる瞬間、初 恋の女の子とのひと夏の思い出。ドキドキしたり、くすぐったいような、甘酸っぱいよう な懐かしい想い出、ここにはたくさんの青春が散りばめられています。

一番憤りを感じたのは、学校の先生たちの態度。断定的に畳み掛けるようにただ命令する だけ。どうしてもっと子供たちの話を聞いてあげないのか、自分の都合だけを押し付ける のかやるせない気持ちでいっぱいになりました。

大人は子供たちからみると絶対的な存在で、その大人に言われると、その通りのような気 もするけれど、何か釈然としないものが残る。しかも決して対等な関係などではない。 一方的に押し付けられるだけ。ものすごい圧迫感を感じる存在なのだ。
心の中には、言葉にならないもやもやとしたものが溜まっていく。喉のすぐそこまで 出かかっているのに、言葉にならない大きなかたまり。

次から次へと起きるトラブルがキレイに解消されるわけではないけれど、彼らは自分たち なりの方法でほんの一歩を踏み出す。ビートルズの歌を聞いて勇気を得た神山君は、みん なの前で歌う。みんなも少しずつ神山君の影響を受け、禁止されているビートルズを体育 館でかけて、踊ったり飛び跳ねたりする。雷の夜に、叫んだり歌ったり踊ったりもする。 はちゃめちゃだけど、こんな風に思い切りぶっ壊れるのは気持ちいいだろうなぁ。

もうひとつ好きなシーンは、ある2人が一緒に並んで座ってるところ。言葉はなくなり静 かなんだけど、隣にいてくれることがただ嬉しかったという場面。この時、言葉は交わさ なくてもお互い同じ思いを共有し、みていたんだろうなぁ。
その時の風景、足をバタバタ揺らしながら、ただ前を眺めていたこと、薄暗くなっている のにまだ一緒にいたくて帰ろうとなかなか言い出せなかったこと、このまま時間が止まっ て欲しいと強く願ったこと。ずっと昔の忘れていた思い出が蘇ってきたのでした。

どんなにつまらないと思っている日常でも、退屈でも、素敵な一コマは時おり訪れるもの だと思う。この本は、そういう一瞬にして過ぎ去ってしまう一コマを、キラキラとした思 い出のまま再び立ち昇らせてくれる。

→著者別[国内小説]
→ジャンル別[青春・学園小説]
→テーマ別[異国情緒][夏休み]


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