薄闇シルエット | 夜をゆく飛行機 |
さがしもの | ひそやかな花園 |
タケダくんにプロポーズされ戸惑うハナ。タケダくんのことは好き。 だけど「ちゃんとしてやんなきゃ」と言う言葉に引っかかるハナ。 タケダくんのことは好きだけど、どうして結婚してもらわなければならないのか。 どうして私がそれを喜ぶと当然のように思っているのかわからない。
長く独身でいればいるほど、自分の生活スタイルが確立され、それを崩されてしま
うのが嫌なのかもしれない。ずっと1人でいた空間に、他人が入ってくることに躊躇してしまう。
独身生活が長いぶんだけ、そこからどっしりと重い腰を持ち上げる
のは容易ではない。
そして自分は結婚したくないのに、周りが結婚して行くと、焦ってしまう気持ちも
なんとなくわかるなぁ。
現代はみんな絶えず何かに駆り立てられている。人と比べて遅れをとっていないか
気にしている。ちゃんとしなければと自らをがんじがらめに追いつめている。
本当は自分らしくマイペースでいけばいいのに。
ハナちゃんが抱えている焦りや葛藤に共感できる人は多いのではないでしょうか。
この現代に流れる風潮や空気がそういう傾向にあるように思う。
ラストは、ずっと悩み迷い続けたハナちゃんが、やっと自分の幸せは自分で掴み取
らなきゃいけない、自分だけの価値観でみつけなきゃいけないと気づきます。
谷島酒店一家6人、父、母、4人姉妹、その末っ子の里々子の視点で語られる家族を描い
た長編小説です。
にぎやかでドタバタしていて楽しそうな家族。その中にすっぽりと浸り、いつまでも変わ
らない里々子。物干し台のベンチで空をみあげ、ぴょん吉に語りかけている姿がしんみり
していて愛おしい。
長女の有子は結婚しているが、過去には駆け落ちの経験がある。次女の寿子は小説家とし てデビューし、三女の素子は合コンに精を出していたのに、ある日突然、酒店を改装し自 分がこの店を継ぐと言い出す。変わらないと思われていた家族が緩やかに変化し、里々子 だけが取り残されていく。
家族というものは、常に色や形が変わる空間なのだと思う。色んなものが失われたり増え たりもする。誰も気づかないような緩やかな速度で。だからかなりの月日が経ってから、 あぁ、あの空間はもうどこにもないんだと気づいたりする。
里々子だけがもう失われてしまった虚構の世界で身動きができず、1人ぽつんと佇んで
いるみたい。私が、里々子の年齢の時には変わりたい、早く大人になりたいとずっと思
っていたので、里々子みたいな人がめずらしく新鮮に思えました。
背伸びせず、でも立ち止まらずに、ゆっくりでもいいから進んでいければいい。失われた
家族の虚構は心のアルバムに。
だけど流されてみること、行き着く先はわからないけれど、その変化を楽しむことも大
事だと里々子に伝えたい。
本に纏わる短編なのですが、どのお話も普通の人々の普通の本との関わりを描いている。 だからこそ作られたお話なんかじゃなくて、自分の想いと重なる部分も多く、本を好きっ ていう気持ちがより膨らんできます。
手放した本と再び出逢う『旅する本』、子供の頃、商店街の外れにあった小さな本屋の想
い出を描いた『ミツザワ書店』、彼と別れることになり、二人で共有していた本棚から自
分の本を持ち帰り、想い出を回想する『彼と私の本棚』、バレンタインにチョコではなく、
本を贈ろうとする女の子の『初バレンタイン』
本と出逢った時の喜び、愛情がギュっと詰まった9つの短編集です。
『初バレンタイン』で、女の子が、彼に本を贈るのに、あれこれ考えてしまうところが可 愛くて好き。いくら自分が気に入ったものだからといって、相手はどう思うか、もし気に 入らなかったら、好みを押し付けてるみたいに思われたら・・・・・・と心配の種はつきない。
これは初めて好きな人にチョコを贈った時と一緒だなと思った。似たようなチョコをいく つも眺め、あっちの売り場をウロウロ、こっちの売り場もウロウロ、いっぱい迷い、勇気 を出して選び抜いたたった一つのチョコレート。私は何をこんなに真剣になっているんだ ろう。高揚感と心地よい疲れを抱え、家に帰った日のことを思い出してしまいました。
『彼と私の本棚』は、じわじわと襲ってくる哀しみが切ない。二人の共有する記憶が、ピ
タリと終わりを遂げ、無理やり引き剥がされたように感じたあの一日。
本について語り、同じ光景を思い浮かべ、感動する場面では一緒に涙し・・・・・・
それはとてもうらやましいことだけど、本をみるたび、彼の気配を感じてしまうなんてた
まらないなぁ。
思わずほっこりしてしまうようなものや、しんみりする話、ロマンチックなものまで色々 です。本がますます愛おしくなるオススメの一冊。
→著者別[国内小説]
→ジャンル別[一般小説]
→テーマ別[図書館が舞台/本の本]
幼い頃、毎年みんなで過ごしたサマーキャンプ。7人の子供達にとって、きらめく夏の日々は忘れられない思い出だ。しかしある時から突然サマーキャンプは中止になり、彼らの記憶も薄れていく。大人になり、あの集まりがなんであったのか疑問を抱き、知ってしまう衝撃の真実。大人たちの秘密を知った彼らは……。
序盤からひしめいている謎。大人たちは何か隠している。楽しいはずのキャンプに時折混じる大人たちの不審な動き。この先にいったい何があるのか、早く先が知りたくて夢中になって読んだ。
衝撃の真実を知った時の彼らの戸惑い、苦しみが、詳細な描写で綴られています。人物の性格や考え方には、それぞれ個性があって、色んな受け止め方があるんだなぁと思いました。
後から振り返ると、子供たちには楽しかったあのキャンプも、親たちはまったく違う気持ちを抱いていて、色々悩んだり、迷ったりしていたんだなぁと想像できます。そしてその後、家族、夫婦、親子について思いを巡らせずにはいられないのです。
ある「決断」が良かったのか、悪かったのかは、時間が経過してみないとわからないこともあります。上手くいく家族もあれば壊れてしまう家族もある。「選択」することで傷ついてしまう人がいることもわかっている。それでもそうせずにはいられなかった。そんな母親の気持ちが胸に響きます。
生まれてくる環境は自分では選べなくて、否定してばかりいては何も始まらない。幸せは、自分の足で歩いてみつけるんだということを、この本は教えてくれてるのだと思います。