よもつひらさか | |
現世から冥界へ下っていく道を、古事記では“黄泉比良坂”と呼ぶ―。なだらかな坂を行 く私に、登山姿の青年が声をかけてきた。ちょうど立ちくらみをおぼえた私は、青年の差 し出すなまぬるい水を飲み干し…。一人でこの坂を歩いていると、死者に会うことがある という不気味な言い伝えを描く表題作ほか、戦慄と恐怖の異世界を繊細に紡ぎ出す全12篇 のホラー短編集。 (「BOOK」データベースより)
ホラー小説なのですが、一つ一つの短編はミステリーだったり、ファンタジーだったり色
んなお話が含まれています。
日常があっていつもと変わらない生活があり普通に日々を送る人々。それがほんのささい
な出来事がきっかけで怪奇な世界へと巻き込まれていく。最初は足元を濡らす程度の水だ
った。いつの間にか溢れ出し、気がつくとずぶずぶと沈みこむような、緩やかだけど確実
にジワジワと近づいてくる怖さがあります。
私が一番好きなのは、『遠い窓』です。現実から逃避し、夢ばかりみる少女。夢の世界は 幻想的で心地いい。日記という語り口がいい雰囲気を醸し出しています。いつまでも夢の 世界に浸っていたいという乙女チックな一面の裏に隠された刃にぞくりとする。
次に好きなのが『家に着くまで』です。密封されたタクシーという空間で交わされる殺人事件の 推理。はっと息を飲む驚き、どこへ向かおうとしているのか想像もつかない矛先。でも確 実に恐ろしい結末が待っていると予感させるスリルがたまらない。
思い込みの強さから発展する狂気とはなんて恐ろしいのでしょう。一度火が点くともう誰 にも止められない。後は真っ逆さまに転がり落ちるのだ。私達はただ見守ることしかでき ない。最後に浮かべる主人公の不敵な笑みに冷ややかさがあります。
→著者別[国内小説]
→ジャンル別[SF・ファンタジー・ホラー]