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藤田宜永作品

艶紅(ひかりべに) 邪恋

艶紅(ひかりべに) /藤田宜永 著


生まれ育った祇園の茶屋を嫌い、生家を出て染織作家となった37歳独身の久乃。栗東で競 走馬の装蹄師をしている、妻子と別居中の恵一郎。ある雪の日、縁切り寺と呼ばれる安井 金毘羅宮で出会った二人は急速に惹かれ合っていく―。直木賞受賞作の原点とも言うべき、 京都の四季を舞台にした詩情溢れる恋愛小説。(「BOOK」データベースより)

この小説を読んで、まずすごいと思ったのは、著者の綿密な取材の跡がうかがえることで す。装蹄という特殊な現場の様子や、植物染め、機織りなど私にはどれも馴染みのないも のばかりで新鮮です。ちょっと外に出かければすぐ知り合いに会ってしまったり、色 々な噂が囁かれたりするところ、方言、因習や京都人気質など、京都独特のものがいっぱ い詰まっています。

何より美しいのは、四季折々の京都の町並みが詩情豊かに彩られていること。特に冬の京 都の雪景色は、うっとりするほど魅力的です。寺や神社はなぜこうも雪が似合うのだろう。 真っ白に包まれたその光景は静寂さを醸し出し、一段と風情が増したように思えるのだ。 安井金毘羅宮、白川の石の橋などの具体的な名所が出てくる所も良い。

久乃と恵一郎、二人の温度の高まりが、こちらにもひしひしと伝わってくる。素のままの 自分でいられる幸せ、相手の懐にまるごと飛び込む時の熱っぽさ。こんな恋がしてみたい と思える理想の形がここにあります。

感情を抑える術を心得ている二人。お互いの事情を理解し、察してあげる心遣いも持って いる。好きの気持ちは本物なのに、こんな結末が待っているなんて・・・・・・。
でも、やはり彼や彼女の立場になってみると、グラグラと揺れてしまいそう。情を完全に 捨てきることなんてできないし、どちらを選んたとして嫌な後味が残りそう。苦渋の決断 なのである。 歳を重ねるほど逃れられないものの大きさに、どっしりと重い大人の事情をみた気がしま す。

→著者別[国内小説]
→ジャンル別[恋愛小説]
→テーマ別[異国情緒][婚外恋愛小説]


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邪恋 /藤田宜永 著


義肢装具士の笹森は友人の医師・智久の依頼を受け、下肢を失った美弥子の義足を製作す る。自殺未遂か、事故か、下肢切断の理由を語らず、義足をつけることも頑なに拒む美弥 子。静かな諦念に彩られたその風情に笹森は惹かれてゆくが、そんな彼には秘密の愛人が おり、美弥子にもまた…。情愛が炙り出す孤独と不安、性愛が喚び覚ます熱と冷気。大人 の恋の本質を描き尽くした長編ロマン。(「BOOK」データベースより)

流れている音楽は洋楽、着物よりもドレス、パーティではなくサロン。漂う世界観は外国 風で、日常も描かれているのに、生活感がない。

笹森は飢餓感を抱え、常に女を追いかけている。だか決して女に惚れることはない。いつも 冷静沈着、何を考えているのかよくわからない人物である。なぜそこでこんな対応しかで きないのだろう。なぜ人事のように突き放した言い方しかできなのだろう。人間味がまっ たく感じられず最後まで共感することはなかった。

ベッドで繰り広げられるとろけそうなほど濃密な大人の時間。ある時は別荘、ある時は密 会のために借りたマンションで、色情に溺れた男女の交わりは艶かしい。
頬にかかる乱れた髪、襖に映る二人の影、余情の後に残っている乱れた静寂。まるで無声 映画のように美しく、一つ一つの場面が鮮やかに浮かび上がってきます。

一見穏やかにみえる会話の水面下ではドロドロとした腹の探りあい。女のしたたかさ。
あれほどまでに自己防御が働いていた笹森が、激しく動揺する様が手に取るように伝わっ てくる。彼女らが、笹森に最後に放っていった言葉が印象的で、ばっさり切られたような 衝撃を受けた。

→著者別[国内小説]
→ジャンル別[恋愛小説]
→テーマ別[エロティック][婚外恋愛小説]


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