猫の客 | |
都内の貸家に住む夫婦の元にやってくる隣家の猫とのささやかな交流を描いたも
の。
舞台は1980年代、古めかしい趣きを残す商店街、よく手入れされた家々の
庭、その辺りだけ時間の流れがゆったりしているような情緒ある町並み。
どこか懐かしい一角に迷い込んでしまったかのような、静かな空間が心地よい。
夫婦の元に猫が訪れることにより、ひっそりしていた空気が、潤いのあるものへと
変わっていく。それほど猫好きではなかったのに、だんだんと訪れる頻度が増すた
び、すっかり心奪われてしまう。
飼い主がいるので、家に連れ込んだりはしない。でもいつでも入れるようにしてお
く。寝床や食べ物を用意し、ゆったりとくつろげるようにしている。
入ってくると、触れるでもなく、抱くでもなく、ただ見守っている様子に、愛情が感じ
られます。
やってくるのを心待ちにしているのに、みつめているだけ。そういう猫との交流もあ
るのだなぁ。優しく見守り、微笑んでいる姿が目に浮かぶようです。
小さい頃、金魚を飼っていたことを思い出した。私はどうしても触れてみたかった。 我慢できず何度か水槽に手を入れ、水の中からちょこっとだけ出して、なでたり感 触を確かめたりしていた。 もしかしたら、私が何度も触れたことで、寿命が縮まっていたのかもしれないと思う と、ちょっぴり胸が痛むのだ。
突然の猫との別れ。喪失感。 悲しいのだけど、いなくなってもあの可愛らしいしぐさは、くっきりと胸に残ってい る。猫のある暮らしを一緒に体験しているかのような安らげる小説です。
→著者別[国内小説]
→ジャンル別[一般小説]
→テーマ別[動物]