ずっと逢いたかった。 | |
戦時中に愛する妻雪子へ宛てた手紙。小瓶に詰めて海へと投げ込み、村川義純の元に流れ 着く。その手紙の内容とは?込められた想いとは?舞台は現在と太平洋戦争を交互に行き 交い、愛の物語を紡ぎ出す。義純は、手紙を雪子に届ける決意をする。
義純はリストラに合い、それを妻に言い出せずにいた。息子も家に引きこもり家庭内は冷 たい様子。ぽっかり穴が空いたかのように身の置き場のない義純。だがある日突然、置手 紙を残し家を出るのだ。いったい何が彼を駆り立てたのか。時には野宿し、ヒッチハイク までして進んでいく姿は、ただ届けたいという一途な想いだけです。
戦争はたくさんの人を傷つけます。愛する二人を引き裂きます。好きな人と普通の日常を
過ごしたい。そんな願いも叶わないのです。
戦争を振り返り語る人、空母が沈み行くリアルな描写。時々誰かが発したセリフにはぐっ
とくるものがあります。その当時は知らないので想像することしかできないのだけど、思
いを巡らすうちに「現代」という時代を強く意識したのです。
平和だと思う。豊かだと思う。でも心は貧しく寂しい。テレビでは「勝ち組」「負け組み」 などとおかしな言葉が飛び交い、次々と似たような製品が開発され誘惑も多い。煽られ大 きな波に飲み込まれ簡単に失ってしまう。果たして本当に無くしてしまったのか。私達の 生まれた時代にはもう無かったのではないか。
強く訴えかけてくるでもなく、飛びぬけて上手い文章というわけでもない。だがそこに終 始流れる緩やかな優しさにジーンとくるのだ。心が洗われるオススメの一冊です。