すいかの匂い | 落下する夕方 |
ホリー・ガーデン | 赤い長靴 |
いつか記憶からこぼれおちるとしても |
子供の頃の夏の記憶、忘れられないずっと色濃く残っている秘密にしていたいこと。 11人の少女たちのそんなかけがえのない物語です。
大人にはわからないけれど子供には子供の世界がある。表現する言葉がないだけ。
無知だったから。時には残酷なこともする。
楽しい思い出とも違う。辛いでも悲しいでも、うれしいでもない。
カタツムリを踏みつぶしたり。おはじきを畳にぶちまけたときのさらさらと涼しい
音。ビニールプールのへりの感触。
この本には、そんな思い出を呼び覚ますたくさんの色や匂い、形、手触り、五感を
刺激するものがギュっとつまっています。
ふとしたきっかけで、忘れていた出来事が蘇る瞬間。
読んでいくうちに、いつのまにか私も子供の頃に帰り、遠い過去の様々な出来事を思い出してしまいます。
あの時感じたドキドキ感、恐怖は子供の時にしか得られないもの。
一瞬のもう戻れない日々なのだ。
→著者別[国内小説]
→ジャンル別[一般小説]
→テーマ別[子供の情景]
失恋って寂しくて孤独で、心にぽっかり穴があいたような気分。その最中にいる間 は、もうこのままこの状態から抜けられないんじゃないかと――ずっとこのままな んじゃないかと思ってしまったり。抜け殻のように気がつけばいつも相手の面影、 しぐさのひとつひとつ、1人になってしまった部屋の広さをかみしめたりする。
この本の主人公の梨果もそこから抜け出せず、かなり長い期間失恋にどっぷり浸か っています。 8年も一緒に住んでいた健吾に、ある日別れを切り出された梨果。それと入れ変 わるように、健吾の新しい恋人華子がやってきて奇妙な共同生活がはじまる。
華子は自由奔放で、何を考えているのかわからない子です。
周りはどんどん振り回されていく。
華子の言葉は常に正しい。その言葉には余分なものがかぶさっていない。
だからこそストンと心に響く。心情はいっさい読み取れない。
謎が多いぶん、華子が気になってしまい惹きこまれるのです。
思いを断ち切れない梨果。華子と繋がりあえない健吾。
謎だらけの華子にも、抱えている重たい何かがあるように思える。
相手の心は思い通りにはならないから。言ってもどうしようもないことだから。
行き場のない言葉たちが、空中に浮遊しているみたい。語られなかった言葉た
ちが漂い、密度が濃くなっているかのように。
ずっとずっとすれ違ったままなのがもどかしかった。
未練や、執着、嫉妬などの感情を抱えながらも送る静かで穏やかな日常。
江國さん独特の文章は負の感情も美しいと思えてくる。
人間なんだもの……いいじゃないと。
女友達の友情は、長く続けば続くほど、果歩と静枝のように理解しがたい複雑な部
分を持ち合わせている。知りすぎた仲だからこそ、ズケズケいける部分と、踏み込
んではいけない部分を、無意識のうちに心得ている。
相手を思いあっているのに、ある瞬間に突然残酷な一言をグサッといってしまった
り。その後、ものすごく後悔して喉元がムズムズする感じとか、あまりにもリアル
すぎてどぎまぎしてしまう。
1人でピクニックにいったり、過去の失恋の痛手を引きずったまま、色んな男性と
付き合う果歩。
家庭のある彼が好きだといい、不倫を続ける静枝。
ここに出てくる人物は、ちょっと変わっていて、よくわからない行動をとったりす
るのですが、人ってみんなこういう部分あるんじゃないかなと思う。
果歩と静枝の中に、中野が入った時の空気の違う感じとか、静枝と祥之介の、恋愛
とも友情とも違う微妙な距離感とか。
説明のつかない、友情とも恋愛とも違う愛情。
よくわからないながらも、この感覚はわかる!とか、こういう時はダラダラと身を
まかせて漂っていたいんだよなぁとか、よくないのはわかっていても手放したくな
い気持ちとか、妙に納得してしまう。
ゆるゆると流れる時間に身をまかせ、過去を引きずっていたとしても、時間はやっ
ぱり進んでいく。みんな何かを抱えて日々を過ごし、それでも明日はやってくる。
そういうなんでもないことが、とても美しく感じられた。
「私と別れても、逍ちゃんはきっと大丈夫ね」そう言って日和子は笑う、くすくすと。笑 うことと泣くことは似ているから。結婚して十年、子供はいない。繊細で透明な文体が切 り取る夫婦の情景―幸福と呼びたいような静かな日常、ふいによぎる影。何かが起こる予 感をはらみつつ、かぎりなく美しく、少し怖い十四の物語が展開する。 (裏表紙より)
一人でいる時よりも、もっと寂しい二人でいる時の孤独。話を聞かない夫、通じない夫に
寂しさを感じている妻・日和子。ある夫婦の日常を描いた14編の連作短編集です。
こんな夫婦はホントにいそうだし、この感覚わかるなぁって思うところはいくつかあった
のだけど、見たくないものをみてしまったという後味の悪い小説でした。
この夫婦、仲が悪いわけではないけれど、近くにいるのに隙間風が吹いていてもやもやし た印象。ふとした時の微妙なズレ、なんかこの人は違うと感じるのだけど、ぶちまけるほ ど大きな不満でもない。ただそれが毎日の生活でたびたび起こるのだとしたら、諦めの気 持ちが生じるのかもしれない。
日和子の寂しさはよくわかるのだけど、何も言わずくすくすと笑うことしかできない気持 ちがわからない。私が日和子だったなら、もっと怒ったり泣いたりすると思う。ケンカす るでもなく、離婚するでもなく生活を送る日和子が私にはもどかしい。
分かりたい、通じ合いたいと思っていても、この夫婦の場合、無理でしょう。どんなに長
い時間いたとしても、どんなに言葉を尽くしたとしても・・・・・・
相手は自分とは思考回路も、考え方、感じ方もまったく違う人間だから。
別の人格を持つ相手との決定的な違いをいくつもみつけ、読んでいるうちに空しさだけが
どんどん広がっていく。違いを認め、そういうものだと受け入れるべき?でも、なんとか
したい。繋がりたい。私はそう願ってしまう。どうしようもないことだとわかっていても
・・・・・・
吉田くんとのデートで買ったチョコレートバーの味、熱帯雨林にすむ緑の猫への憧れ、年上の女の細くて冷たい指の感触…。10人の女子高校生がおりなす、残酷でせつない、とても可憐な6つの物語。少女と大人のあわいで揺れる17歳の孤独と幸福を鮮やかに描き出した短篇小説集。(「BOOK」データベースより)
教室という小さな箱はとても狭くて息苦しくて、でもそんな中で一人になりたくなくて必死に誰かと群れていたあの頃……。楽しく笑いあっていても、明るく過ごしているようにみえても、やっぱり孤独でもがいていた。
何に揺れていたのか、何に捕らわれていたのか、何を掴みたかったのか。当時の自分は無自覚で頼りないから手探りで進むしかなかった。
親友が学校を休んだ日の心細さや、彼とデートする時のぎこちなさ。エミが壊れていく様子はぞっとしたし、それを見守る萌子の不安もひしひしと伝わる。心がピクンとなる瞬間や頻繁に感じていた些細な苛立ち、淡々とした会話の余白に広がる寂しさもしっとりと描かれている。
あの時の空気感がリアルで、たくさん共感できることがいっぱいなのだけど懐かしいという気持ちにはなれない。気だるくて重くて心にズキズキとくるから目をそらしたくなる。
誰かと一緒にいても、自分のことだけみつめていた。でも教室には生徒の数だけ物語があって、色んな人の心の中を覗けます。この本はもうこぼれ落ちてしまったいくつもの情景を思い出させてくれる。